予備試験対策 刑法 まとめノート (旧)

Ⅰ構成要件 1実行行為 2因果関係 3故意 4過失
Ⅱ違法性  1総論 2正当防衛 3緊急避難  Ⅲ責任
Ⅳ共犯   1基礎理論(総論) 2共犯の類型・要件 3共犯の諸問題  Ⅴ罪数

 

章前 刑法答案メモ
実行者と実行しない者がいれば、実行者から書くのが鉄則である(ここ間違えたらその時点で落ちる)。
共同正犯となる場合でも、完全に一人で実行している場合には、一人目は単独正犯で論じ、後述のように共同正犯となる、とし、二人目で共同正犯の要件等を検討する。例:乙の行為によりAが死亡しており乙の傷害致死罪の単独正犯までは確定する。甲は60条を使わなければ、Aの死の結果につき帰責させることができない。そこで乙から単独正犯を論じる。共同正犯は甲についてAの死の結果を帰責させるために論じる。
要件ごとにナンバリングするのが基本(RACは段落を下げて示せばいい。構成要件→違法性→責任→結論とする場合はその通りナンバリングする。

Ⅰ 構成要件
1 実行行為
(1)未遂犯(43条本文)の処罰根拠は法益侵害の現実的危険性の惹起にある。そこで、構成要件的結果発生の現実的危険性を惹起する行為を開始した時点で実行の着手を認める。着手時期の判例知識は短答で○
どの行為を検討するか。時間的場所的接着性、目的・故意の違い、などで大きく捉え、無理に細切れにしない。
(2)Xの行為は不作為であるが、殺人罪の実行行為が認められるか。
ア 不作為の実行行為とは、作為義務に反することをいう。しかし、199条には作為義務が明記されていない。そこで、作為義務の判断基準が問題となる。この点、同じ条文で処罰する以上、作為も不作為も構成要件において同価値でなければならない。そこで、作為との構成要件的同価値性が作為義務の要件であると解する。
イ では、作為と構成要件的に同価値といえるには、いかなる要件が必要か。この点、作為とは、結果に至る因果の流れを設定し、結果の実現を支配することである。とすれば、①危険の創出、危険の引き受けがあり、②法益を排他的に支配することが必要である。③作為の可能性・容易性も必要である。
ウ まず、法益侵害の危険の認定。次に①充足、②充足。③作為可能性も検討し、肯定する。
(3)甲は他人を利用して犯罪を実行しているので、間接正犯が成立しないか。(初めに書く)
ア 間接正犯も規範的にみて直接正犯と同視し得る実行行為性、すなわち間接正犯者が犯罪を実行したと同視できる点に正犯性の根拠がある。そこで、間接正犯が成立するには、他人を利用(正犯意思)し、その行為を一方的に支配(支配性)したことが必要となる。
イ 実行行為の着手時期は、(作為犯では)被利用者の行為時点であると解する。未遂犯として処罰に値するほどの法益侵害の現実的危険性が惹起されるのは、被利用者の行為時点だからである。
ウ. …という動機があるので、甲はAを利用している。
エ. 行為者が被害者の行為をもたらし、被害者に構成要件的故意についての認識が欠ける場合、被害者が欺罔により錯誤に陥っている場合、被害者の行為を構成した場合には、他人を一方的に支配している。
被利用者に自由意思がある場合、他人を一方的に支配し、という要件が欠ける(H21・25司法)。これが被利用者の行為の前であれば、間接正犯の実行の着手が認められない。→錯誤の検討 目的を欠く場合でも同じである。
(4)未遂 ア 未遂犯(43条本文)の処罰根拠は法益侵害の現実的危険性の惹起にある。よって、法益侵害の現実的危険性を惹起する行為を開始した時点で実行の着手を認める。
未遂犯の検討の際に、必ずしも2つの行為の一体性をクロロホルムの判例によって検討する必要はない。
単に、この時点で既に結果発生の現実的危険性が認められる、として未遂犯をあっさり認めるタイプもある。
客観的に危険性が認められる場合にはそれで肯定すればよい、単純なほう。客観だけでは認められない場合にはじめて主観・犯行計画も考慮する。クロロホルムの判例。
イ 丙は未だ引き出しはしておらず、暗証番号を入力した時点で窃盗罪の実行の着手が認められるのか。窃盗罪の実行の着手時期が問題となる。この点、暗証番号を押してからお金を引き下ろすまではボタンを数回押すだけでいいから、暗証番号を入力した時点で銀行の占有する金銭に対する占有侵害の現実的危険性が惹起されたといえる。したがって、丙が暗証番号を入力した時点で、窃盗罪の実行の着手が認められる(H25予備)。
ウ こんすい強盗は睡眠薬入りの酒を飲ませた時点で実行の着手がある(眠りこけなくても未遂犯)。
(5)第1行為の時点で実行の着手が認められるか。…を第2行為として検討する。(計画段階よりも早く死の結果が生じた場合 H25司 I1実行行為 I2因果関係の錯誤)
ア この点、実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいう。
危険性の判断資料として、客観のみならず、主観も考慮するべきである。
行為は主観と客観の統合体であるし、客観的には同一であっても行為者の主観によって危険性が異なり得るからである。
イ そこで、計画の内容について検討する。計画上の第1行為と第2行為が密接性を有し、一体の行為といえるか。
①第2行為にとって第1行為が必要不可欠であること、②第1行為から第2行為への遂行が容易であること、③第1行為と第2行為との間の時間的場所的接着性が認められる場合に、一体性が肯定されると考える。
(6)中止犯(43条ただし書)の成立要件は、①任意性、②中止行為である。
ア ①人の意思決定は何らかの外部的事情に基づくのが通常であるから、行為者の主観面だけを基準にすると、狭すぎて任意性が肯定されにくい。これでは、中止犯の犯罪予防効果(政策的効果)が薄れてしまう。そこで、行為者の認識した事情が、経験則上一般的に犯行を妨げるような事情である場合に、任意性を否定するべきである。例:後悔
イ 一般的に着手前は不作為、着手後は作為
刑の必要的減免という中止犯の効果を与える以上、かかる効果を享受するに値するものでなければならない。そこで、②´中止行為においては、真摯性が必要となると解する。また、②´´人の手を借りた場合でも成立しうるが、それは自分で中止したのと同視できる必要がある。
ウ 例:結果惹起がそもそも不能であった場合、他人の行為によって結果が阻止された場合
中止行為と結果不発生との間に因果関係は不要である。中止犯の減免根拠は責任減少にあるところ、真摯な努力をした以上、責任は減少するからである。
(7)不能犯となるか、実行の着手の判断基準が問題となる。例:致死量に達しない、そもそも引き出すことはできなかった、死体に対する殺人
ア 未遂の処罰根拠は構成要件的結果発生の現実的危険性を惹起することにある。客観的には同一の行為であっても、行為者の主観によって危険性が異なり得るので、行為者の認識した事情をも基礎とする。また、刑法は行為規範であるから、危険性の判断は行為時における一般人を基準とするべきである。したがって、一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識した事情を基礎として、行為時の、一般人の判断を基準に、法益侵害の現実的危険性を判断する。(客体の不能で採用)
イ 未遂の処罰根拠は、法益侵害の現実的危険性を惹起したことにある。刑法は法益そのものを保護することを目的としているから、客観的危険性がある場合に実行行為を認めるべきである。しかし、純粋に科学的に危険性を判断すれば常に不能犯となる。そこで、事実を抽象化して、仮定的事実の存在可能性があれば、それを前提に客観的危険性を判断するべきである。
例:中毒症状に至る程度の農薬の量であり、Aの体調いかんでは死ぬ可能性がある。
例:都市ガスで中毒死する可能性はないが、静電気やコンセントから発火する危険性、窒息死の危険性はある。
(8)結果 具体的危険犯は危険の当てはめをして、抽象的危険犯は行為を当てはめる(青29)。

2因果関係
(1)因果関係の目的は偶発的な結果を評価から除去し、処罰の適正を図ることにある。そこで、因果関係が認められるには、条件関係のみならず法的因果関係が必要である。
(2)法的因果関係は二段階の規範が必要である。判断基底の論証を忘れないようにする。
ア 法的因果関係は実行行為と結果とのつながりを意味する。実行行為とは、構成要件的結果実現の現実的危険性を有する行為である。そこで、実行行為の危険が現実化して結果が発生する場合、法的因果関係を認める。
この際、判断基底に制限を加えると、介在事情の結果に対する寄与度を考慮することができず、適正な帰責範囲を確定できない。したがって、判断基底には制限を加えない。(これを忘れない。)
イ 本問では、介在事情はAの不作為である。不作為は結果に対する物理的因果性を有していない以上、結果に対する介在事情の寄与度は小さい。よって、実行行為の危険が現実化して結果が実現したと解する。
ウ 本問では結果に対する介在事情の寄与度が大きいので、法的因果関係が否定されるとも思える。
しかし、実行行為と介在事情が相まって結果を実現したときには、例外的に行為の危険が現実化したといえる。
(A:ⅰ誘発したといえるか、ⅱ介在事情発生の蓋然性と危険状況の設定が認められるか。)
…以上より、介在事情を経由して、結果を現実化する危険性が実行行為に含まれていたといえる。そして、そのような行為の危険が現実化して結果が発生したといえる。
エ Vの頸部を締め、死んだと誤信し砂上に放置して、頸部絞扼と砂末吸引により死亡した。→頸部絞扼によってVは意識を失い、砂末の吸引を防げない状態に陥った(危険状況の設定)。また、殺人をした者が(うつ伏せで)死体遺棄行為に出ることはよくあることである。したがって、第1行為の危険性は第2行為を経由して結果へと実現化したといえる。以上より、法的因果関係が認められる。→因果関係の錯誤の検討へ
前車を交差点に押し出した行為 介在事情の蓋然性○ 危険状況の設定○
オ 行為後、死ぬまでの間に被害者が人に接触した場合、この論点を忘れないようにする。
例:甲が殴って気絶した後に、被害者の子乙が放置する場合、甲の傷害致死において乙の不作為が介在事情となる。
例:甲が毒を飲ませた後に、乙が放置する場合、甲の殺人罪において乙の不作為が介在事情となる。
例:甲が猟銃を誤射した後に、甲が殺した場合、過失致死罪において後の発砲が介在事情となる。
新司26は、介在事情の寄与度が大きく、幼児の虐待と交通事故には何の関係もないから、因果関係が否定され得る。死期を早めただけと言い張るなら因果関係を肯定する。
(3)Xの不作為による実行行為とVの死との間に因果関係が認められるか。
ア 不作為における条件関係は、あれあれば結果なし、の関係をいう。作為義務を尽くせば結果を回避できたか不明にもかかわらず、結果を被告人に帰責させるのは「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反する。そこで、条件関係が認められるには、作為によりほぼ確実に結果を回避できたことが必要となる。
イ また、不作為につき…の危険性が認められ、かかる危険が現実化して…したといえる。したがって、法的因果関係が認められる。
(4)現実に発生した因果の流れは、丙の認識したそれとは異なるものであるが、故意が阻却されるか。
故意責任の本質は規範の問題に直面し反対動機を形成可能であったにもかかわらず、あえて実行行為に出たことに対する非難にある。そして、具体的に発生した因果関係を認識していなくても、同一の構成要件に属する因果関係を認識していれば、規範の問題に直面し反対動機を形成しうる。したがって、かかる場合には故意が阻却されない。

3 故意
(1)総論 個人的に故意の認定は忘れやすい。一言でも言及するように、特に注意する。
故意とは、犯罪事実の認識・認容である。犯罪事実とは、構成要件該当事実と、違法性阻却事由を基礎づける事実(この事実を誤信している場合、責任故意が阻却される)である。検討の順番は、構成要件該当事実→故意→違法性阻却事由→責任故意である。客観的処罰条件については故意・過失は不要である。犯罪事実ではないからである。
犯罪事実の蓋然性を認識予見している、つまり、未必の故意の場合も、故意に含まれる(「…かもしれないけど…だろう。」)。規範的構成要件の認識は、意味の認識(構成要件該当事実の社会的意味又は性質の認識)で足りる。例:「わいせつな文書」に当たると思っていなかったが、いやらしい本であるとの認識があれば足りる〔45 とは異なる〕。認識については、客観的事実を行為者が知っていたかを判断する。認容は、問題文中に書かれた又は推測される行為者の主観を摘示する。
危険犯の問題で、危険性の不認識の事例の問題は出題され得る(事演32)。→故意の問題 具体的危険説なら故意なく不可罰→過失犯の検討 抽象的危険説なら故意不要で犯罪成立。
問題文に「しようとした」「と考え」「認識していた」という文言があれば、その前に書かれた事実は故意等のなかで当てはめる。具体的には、不法領得の意思、目的犯の目的、故意・過失の当てはめでこれらの事実を抽出する。
(2)故意・予定と客観が異なる→錯誤
事実の錯誤の場合、発生した結果に対する故意を阻却するか。  (意図しない客体・因果関係の場合)
ア 故意責任の本質は、規範の問題に直面して反対動機の形成が可能であったにもかかわらず、あえて実行行為に及んだことに対する非難にある。構成要件の範囲内で同一の評価を受ける事実を認識すれば、規範の問題に直面し、反対動機を形成することができる。
以上より、認識事実と発生事実とが構成要件の範囲内で実質的に重なりあう限り故意責任を問い得ると解する。
イ 複数の客体に結果が生じた場合、複数の故意犯が成立すると解する(数故意犯説)。
(3 パターン1)
ア 軽い…罪の故意で重い…罪を実行している。抽象的事実の錯誤が問題となる。
この場合、38条2項は「処断することはできない」としか定めていないが、故意がないにもかかわらずその犯罪を成立させることは責任主義の見地から妥当でない。そこで、軽い罪が成立し得る。
イ では、軽い…罪の故意に対応する構成要件事実が認められるか。
構成要件の主要な点は行為と結果からなる。そこで、①保護法益の共通性、②行為態様の共通性が満たされれば、重なり合いを認める。
(4 パターン2)
ア 重いA罪の故意で、客観的には軽いB罪を実行している。
この場合、認識した犯罪のほうが法定刑が重く、38条2項の適用場面ではない。客観的に存在しない重い罪の成立を認めることは、罪刑法定主義に反し許されないから、現実に発生した軽い罪が成立しうる。
イ しかし、本問ではA罪の故意であり、客観的に存在するB罪に対応する故意が認められるか。
故意責任の本質は、規範の問題に直面して反対動機の形成が可能であったにもかかわらず、あえて実行行為に及んだことに対する非難にある。構成要件の範囲内で同一の評価を受ける事実を認識すれば、その範囲で規範の問題に直面し、反対動機を形成し、故意責任を問い得る。そして、①保護法益の共通性、②行為態様の共通性が満たされれば、構成要件の重なり合いを認めることができる。
本問では…B罪の限度で重なり合いが認められ、B罪の限度で故意責任を問い得る。
以上より、B罪の故意が認められる。
(5 パターン3)A罪の故意でB罪を犯している。
ア この場合、法定刑が同一であり、38条2項の適用場面ではない。客観的に存在しない罪の成立を認めることは、罪刑法定主義に反し許されないから、現実に発生した罪が成立し得る。
イ しかし、本問ではA罪の故意しかない。この場合、B罪に対応する故意が認められるか。
故意責任の本質は、規範の問題に直面して反対動機の形成が可能であったにもかかわらず、あえて実行行為に及んだことに対する非難にある。構成要件の範囲内で同一の評価を受ける事実を認識すれば、規範の問題に直面し、反対動機を形成することができ、故意責任を問い得る。そして、①保護法益の共通性、②行為態様の共通性が満たされれば、構成要件の重なり合いを認めることができる。
本問では…A罪とB罪の構成要件に重なり合いが認められる以上、B罪の故意責任を問い得る。
ウ 以上より、B罪の故意が認められ、B罪が成立する。

4過失 故意がない場合、故意犯を否定した場合、違法性阻却事由を誤信し責任故意を阻却した場合に論じる。
(1)過失犯では、①結果予見可能性、②結果回避可能性、③信頼の原則の3つを必ず想起すること。(検討もこの順番)
「必要な注意」を怠ったといえるか、過失の有無が問題となる。
過失とは結果予見可能性・結果回避可能性を前提とする結果回避義務違反である。
結果予見可能性の判断を先にしてもいい。回避措置の話は結果回避義務の中で検討すればいいか。
(2)予見 ア 予見の程度としては、単なる不安感で足りるとすれば過失犯の処罰範囲が広くなる。そこで、一般人を結果回避へと動機づける程度の具体的予見可能性が必要である。
イ 一般人を結果回避へと動機づける程度の予見可能性があれば足りる以上、構成要件の範囲内で同一の評価を受ける事実を予見できればよいと解する。
別論証:予見可能性とは故意の可能性であり、その内容は故意の概念によって規定される。法定的符合説の立場からは、現実の構成要件該当事実の予見可能性がなくても、同一の構成要件の範囲内の予見可能性があればよい。
ウ 予見可能性の対象は、①構成要件的結果と、②因果関係の基本部分である。この予見は回避義務の遵守を動機づけるために必要であり、かつ、それで足りるからである。
(3)回避義務 通常結果が発生しない程度にまで危険性を減少させる措置を結果回避義務とする。これが注意義務(211条1項「必要な注意」などの内容)となる。そして、注意義務の違反の有無を検討する。
例:薬品名を確認すること 患者の同一性を確認すること
(4)信頼の原則 「任せていた。という事情」「~ないだろう。」という被告人の信頼がある場合にのみ論じる。
ア しかし、「交差道路側の対面信号が赤色の点滅信号を表示していたので、交差道路から交差点に進入しようとする他の車両が信号に従って一時停止するものと」甲は信頼している。そこで、いわゆる信頼の原則の適用によって結果回避義務が否定され、過失犯の成立が否定されないかが問題となる。
イ 信頼の原則とは、他人が適切な行動に出るであろうことを信頼するのが相当で、現に信頼した場合には、たとえ他人の不適切な行動により犯罪結果が生じても、過失責任を負わない原則をいう。同原則が適用されるには、①他人の適切な行動に対する信頼が現に存在し、②その信頼が当該事情の下で客観的に相当であることが必要と解する。
本問では、確かに、対面信号が赤色の点滅信号を表示しており、甲は他の車両が一時停止すると信頼している(①充足)。
しかし、甲には徐行義務があるから、対面信号が赤色の点滅信号であったとしても、横から来る車のことを考えて徐行しなければならない。当該信頼が当該事情の下で客観的に相当であるとはいえないというべきである(②不充足)。したがって、同原則の適用はない。
ウ 狭義の監督過失では信頼の原則の適用がある〔50〕。管理過失は管理者の直接過失が問われており、信頼の原則は適用されない(問題にならない)。
(5)その他 結果的加重犯の加重結果について判例は不要としている。
責任故意が認められず故意犯の成立が否定された場合に、構成要件的故意があることから、同時に過失を認めることができる(例:傷害罪否定→過失致傷(209条1項)が成立する。)構成要件的故意は構成要件的過失を含むからである。
狭義の監督過失では、通常は、被監督者が適切に行為を行うことが見込まれる。そこで、被監督者に過失行為を行う兆候があり、それを認識又は予見し得ることが必要である。

Ⅱ 違法性 (Tb○→正当防衛などの別項目or要件ごとに項目)
1総論 (1)刑法は法益の保護を目的しながらも、行為規範でもあるから、違法性の実質を社会倫理規範に違反する法益侵害・危険の惹起と解する。違法性阻却の一般原理について、①法益衡量のうえ②社会的相当性があれば違法性が阻却されると解する。問題となる法益侵害行為が、別の法益保護に資するものである場合、法益保護手段として社会的に非難されるようなものか検討する(35条の正当な行為の判断となりうる(H26司))。
(2)被害者の同意 
ア 被害者の同意を構成要件非該当事実と解するか、違法性阻却事由と解するかの区別は、同意が違法目的の場合にのみ問題となる。自己の見解を明らかにすればどちらでもいい。
同意能力を要する。欺罔による錯誤に基づく同意は、真意に添わない重大な瑕疵ある意思に基づくから、無効である。脅迫により抑圧された意思に基づく同意は、法益主体の真意に反する以上、無効である。
イ 財産罪や自由に対する罪、住居に対する罪については、被害者の承諾がある場合、構成要件該当性が認められないので、成立しない(としてもいいし、違法性阻却でもいい)。例:場所的移動の自由が失われることに、本人が自由な意思により同意を与えていれば、構成要件該当性が認められないので、監禁罪(220条)は成立しない。
ウ 被害者の承諾は社会的相当性判断の一資料となるから、承諾を得た行為が社会的に相当な行為であれば、違法性が阻却される。傷害を承諾した場合、社会的相当性の考慮要素は、傷害の部位・程度、行為の態様、動機・目的等である。
2正当防衛 (侵害者がいて、それに反撃した場合に論じる。)
(1)ア 問題提起書き方:正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
その要件は、①急迫不正の侵害、②自己又は他人の権利を防衛する意思、③やむを得ずにした行為である。
イ ①急迫不正の侵害とは、法益侵害が現存し、又は間近に差し迫っていることをいう。
正当防衛は緊急状態において自力救済の禁止を例外的に認める規定であるところ、侵害を予期しており、積極的加害意思がある場合、防衛者にとっては公的機関の救済を待つゆとりがある。その場合、主観的意味で「急迫」性が無いので、①を欠く。肯定例:「この機会を利用してこらしめてやろう。」 否定例:けんかになるとは思ったが行った。だけ。
①侵害について、対物防衛を認めるべきである。侵害が物による場合に緊急避難しか成立しないとすれば、防衛行為の許容範囲が狭まるからである。(注:他人の飼い犬であること、飼主に故意・過失がないことが前提。)
ウ 防衛する「ために」という36条の文言から、②防衛の意思は必要である。
そし防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態をいう。(必ず定義書く)
憤激・逆上は防衛の意思と併存し、決定打ではない。積極的加害意思がある場合、防衛の意思を欠く。
「他人の権利」について、公共的法益の防衛は、国家機関の救済を期待し得ない緊迫した場合に限られる。
エ ③やむを得ずにした行為とは、防衛手段として必要最小限度のものであることをいう。
当てはめでは、結果の大小ではなく、手段の大小を検討する(結果から手段の危険性を論ずることも大切であるので、そこは注意)。武器の対等性(まずはここを当てはめる 行為の危険性)、年齢、体格、防御的な行動に終始したか、侵害の攻撃性が減弱していないか等を検討する。 常に代替手段を思い浮かべ、当てはめることができれば点数になる。
オ 第三者と正当防衛:R法定的符合説・数故意犯説→第三者は侵害者ではないので正当防衛を否定→緊急避難の検討
(2)自招防衛
Cの反撃は乙の平手打ちを原因にされたものであるが、かかる場合にも正当防衛が成立し得るのか。自招防衛の成否が問題となる。(具体的な侵害を予期していない場合。予期していれば急迫性の話)
自招行為と言う不正な行為と侵害行為との間に密接な関連性がある場合には、不正対不正の状況にほかならない。したがって、正対不正という正当防衛の前提に反し、他の要件を検討するまでもなく、正当防衛は否定される。具体的には、①違法な行為によって侵害を招致し、②自招行為と侵害行為が緩やかな均衡を保っている場合、正当防衛は成立しない。
参考:この論証は「不正対正の状況→正対正という緊急避難の前提に反し」とすれば、自招危難においても使うことができる。挑発事例では想起
(3)過剰防衛(36条2項)は①②を満たす点で正当防衛と共通するが、③防衛の程度を超えた場合をいう。正当防衛の要件を満たさず違法性は阻却されない。犯罪が成立する。その後に、過剰防衛であり、刑が任意的減免となる、と書く。
侵害が終了したっぽい後も引き続いて防衛行為らしきものがされた場合、量的過剰として、第1行為、第2行為全体について過剰防衛が成立し得る。そのための要件は、①侵害の継続性、②防衛の意思の継続性である(H23司)。
(4)違法性阻却事由を否定した後、しかし、誤信している。そこで、責任故意が阻却されないか。
ア 狭義の誤想防衛:故意責任の本質は規範の問題に直面し反対動機を形成し得たにもかかわらずあえて実行行為に出たことに対する非難にある。そして、違法性阻却事由を基礎づける事実を誤信すれば、規範の問題に直面し得ず、反対動機を形成し得ない。したがって、かかる場合は責任故意を阻却する。その錯誤に過失あるときは過失犯が成立する。
イ 過剰性の錯誤:過剰性は違法性阻却事由を基礎づける事実であり、それを誤信した場合には規範の問題に直面しえず、反対動機を形成しえない。したがって、責任故意を阻却する。その後に過失犯の検討をする。
ウ 誤想過剰防衛(急迫不正の侵害を誤信し、かつ、過剰な行為を行った場合)
(ア)過剰性を認識していない場合:規範の問題に直面し得ず、責任故意を阻却する。
その後に過失犯の検討をする。この場合にも36条2項が準用される。
(イ)過剰性を認識している場合:規範の問題に直面し得る以上、責任故意を阻却しない。犯罪が成立する。
このとき36条2項を準用する。ただし、誤想防衛で過失犯が成立し得て減免なく処罰されることとの均衡から、免除までは認められない。
エ 個々の要件を認識していなかった場合、責任故意の論述をする。
個々の要件をすべて認識していたにもかかわらず、なお正当防衛が成立すると認識していた場合、法律の錯誤を論ずる。
3 緊急避難(37条1項本文) (反撃・加害先が、侵害者以外の第三者の場合に論ずる。)
性質(緊急避難に対する防衛行為の場面で問題となる)は、無関係の他人のためにする緊急避難も肯定されること、さらに害の均衡が要件とされていることから、違法性阻却事由であると解する。
緊急避難の要件は、①現在の危難、②避難の意思、③やむを得ずにした行為(補充性)、④法益の均衡である(37条1項本文)。
強要と緊急避難を肯定する。緊急避難を一切否定するのは被強要者に酷だからである。また、第三者の保護は緊急避難規定により図れるからである。③補充性について、まず侵害者自身に対する正当防衛により法益保護が図られるべきである。それが不可能な場合にのみ、第三者に対する緊急避難は可能となる。自説は、③を欠く場合過剰避難(37条1項ただし書)は成立しない。
④法益の均衡とは、保全法益が侵害法益に優越する又は同程度の場合である。避難行為により複数の結果が発生した場合には、全体として法益を検討すればいい。

Ⅲ 責任
 責任とは道義的な非難可能性をいう。責任能力(39条、41条)は、①弁識能力、かつ、②行動制御能力からなる。ともに必要である。
責任能力は、生物学的要件(精神の障害)と、心理学的要件(弁識能力、行動制御能力)の双方を考慮する(混合的方法)。心神喪失とは、精神の障害により、弁識能力又は行動制御能力のいずれかを欠く状態をいう。心神耗弱とは、精神の障害により、弁識能力又は行動制御能力が著しく減退する状態をいう。
2 原因において自由な行為
(1)論証(実行行為は明示 論M30 H13旧試)
責任能力は犯罪行為時に存在しなければならない(行為・責任同時存在の原則)。同原則の趣旨は、責任能力ある状態での自由な意思決定に基づいて犯罪を実現することに対する非難にある。自由な意思決定に基づく原因行為があり、それに基づき実行行為たる結果行為が行われた場合、結果行為を実行行為としつつ、責任非難を原因行為に遡って行うことができ、完全な責任を問える。
そこで、①責任能力ある状態で原因行為から結果行為にかけて故意が連続していること、②原因行為と結果行為との間に因果性があること、を満たせば、完全な責任能力を認める。
(自らの心神喪失により犯罪結果を生じさせる認識・認容があること(二重の故意)は不要である。)
(2)①は予見の対象を丁寧に規範立てることが必要である。①で故意を当てはめる。
(3)加害行為によって心神喪失・耗弱になり、その下で結果を惹起した場合、原因行為に故意があるから、因果関係の錯誤による。加害行為と並行する飲酒行為等により心神喪失・耗弱となった場合は、原因において自由な行為で処理する。基M147青本137
3 違法性の意識 違法でないと軽信しただけで故意犯の成立を否定するのでは法益保護を図れないから、違法性の意識は責任故意の内容ではない。もっとも、違法性の意識の可能性すらない場合には非難可能性が欠け、責任主義の観点から例外的に責任故意が阻却される。
38条3項ただし書(任意的減軽)は違法性の意識の可能性あるものの、意識が困難ゆえに違法性の意識を欠く場合に適用する。

Ⅳ 共犯 犯罪の成立の検討順は、単独正犯(間接正犯含む)→共同正犯→狭義の共犯 の順である。
1 基礎理論
(1)因果性 狭義の共犯の処罰根拠は、正犯の実行行為を通じて間接的に法益侵害・危険を惹起する点に求められる。共同正犯の処罰根拠は、結果に対する因果性の促進にある。
狭義の共犯における、共犯と正犯の因果関係とは、因果性と同じであり、物理的因果性と心理的因果性が重要である。教唆の場合には犯意を惹起すること、幇助の場合は正犯行為を促進することが要件となる。
(2)従属性
ア 狭義の共犯の処罰根拠は正犯を通じて法益を間接的に侵害したことにあるところ、正犯者が実行行為に出ない場合、法益侵害の具体的危険性が惹起されたとはいえない。したがって、狭義の共犯の成立には正犯の実行行為が必要である(実行従属性)。
また、正犯者の行為が適法である場合、結果に対して二次的責任を負う共犯は正犯に従属するので、共犯も適法となる。そこで、正犯が違法であることは必要となる(以上 制限従属性説)。
しかし、責任は行為者に着目するものであるから個別的に判断すべきであり、不要と解する。刑事未成年との共犯も成立する(2L後期期末)。
イ 正当防衛と共同正犯 共同正犯において違法性阻却事由を検討する際に、ある人の違法性阻却事由の存否が、他の人に影響を与えるか。共同正犯においては各人が正犯者であり、結果に対して第一次的な責任を負う。そこで、共同正犯には従属性が妥当せず、違法性阻却事由は別個に検討すべきである。
(3)行為共同説 共同正犯における一部実行全部責任(60条)の根拠は、結果に対する因果性の寄与にあり(又は、共犯の処罰根拠は正犯を通じて結果に対し因果性を寄与したことにあり)、行為を共同にすることが認められれば足り、あくまで各々が独自に犯罪をするものと解する(行為共同説)。共同者の故意に対応して、構成要件を判断し、罪名が異なる共同正犯を肯定する。
共謀の時点でずれがある場合、これを書く。共謀後に違う行為がなされた場合、共謀の射程について論じる。
(4)必要的共犯
必要的共犯(例:わいせつ物頒布罪(175条1項))においては、対向行為の一方について処罰規定が存在しない場合、共犯規定の適用が排除される。当然予想される関与行為を処罰する規定がないということは、これを不可罰とする趣旨だからである。

2 各類型の要件
(1)共同正犯(60条)
ア 共同正犯(60条)の処罰根拠は、結果に対する因果性の促進に求められる。因果性が認められるには、共謀が認められ、それに基づいて実行されたといえる必要がある。よって共同正犯の要件は、①共謀と、②それに基づく共同実行である。
イ ①共謀とは共同犯行の合意の形成である。これがあるといえるためには、正犯意思と、相互的な意思連絡があることが必要である。(重大な寄与を正犯意思に含める見解がある。)
ウ ②共同実行が認められるには、重大な役割と実行行為が必要となる。
これらの要件は丁寧に論じる。正犯意思は主体的関与の程度も見たほうがいい。
実行共同正犯は当然に、正犯意思も、②も満たすので論証不要。共謀段階での役割と実行段階での役割を分けて論じる。
エ 甲は実行行為を行っていないが、共同正犯が成立し得るか。(実行行為を担当していないときはこれ!答案の最初に書く。)
60条は「(その中の誰かが)犯罪を実行した」とも読めるし、共同正犯の処罰根拠は結果に対する因果性の寄与にあるところ、共謀による心理的因果性が強い限りこれが肯定され得る。そこで、共謀共同正犯も、①共謀と②それに基づく誰かの実行という要件で認められる。
オ 正犯意思がなければ、教唆犯を検討する。重大な寄与がなければ、幇助犯を検討する(区別H26)。
(2)共謀の射程について 
ア 共謀時と異なる行為が行われた場合、共謀の射程の範囲内か否か(因果関係)を判断する。
イ では因果性・因果関係をどう判断すべきか。(規範としてではなく当てはめで考慮すればよいか。)
判断要素は、ⅰ結果惹起に関与しない者が従前の行為に対しどの程度影響したか、ⅱ行為内容の共通性、ⅲ時間的場所的近接性や機会の同一性、ⅳ犯意の継続性や動機・目的の共通性、結果の予測可能性、などである。
判断基準は、①日時、場所、被害者、行為態様が一致している、②行動を限定する制約がない、③共謀段階の行為者の影響力が大きい、である。(①は、かなり大きくずれていたら射程の範囲外である。②「絶対に手を出すな」「絶対に手荒いことをするな」などの制約があった場合、強盗など暴行を手段とする犯罪がなされても、共謀の射程の範囲外である。)
例:甲と乙はA宅に侵入して窃盗を行うことを共謀したが、甲はA宅に侵入して殺人を行った。…両者の犯罪は保護法益が生命と財産とで大きくずれている。したがって、殺人は共謀の射程の範囲外の行為である。乙に殺人罪の共同正犯は成立しない。
例:甲と乙はA宅に侵入して窃盗を行うことを共謀したが、甲はA宅に侵入して強盗を行った。…ともに盗取罪であり、行為態様のずれは暴行・脅迫の有無にすぎない。また、特に行動の制約は課されていない。よって、共謀の射程の範囲内である。乙は結果に対して客観的に帰責される。となると、抽象的事実の錯誤となる。R軽い罪の故意で重い罪を犯した場合→乙には窃盗罪の共同正犯が成立することになる。
射程外とすると予備罪を忘れやすい(論M48)。
ウ H25予備:乙は甲の知らないA名義の口座に振り込ませようとしている。振込先という金銭確保において最も重要なものについてずれがある。また、乙は全額を自分のものにしようとしており、動機にずれがある。とすれば、詐欺が当初の共謀に基づいて行われたとはいえず、乙の詐欺は共謀の射程の範囲外であるというべきである。
よって、甲に詐欺の共同正犯は成立しない。以下、幇助犯を検討する。(幇助犯成立させた後に錯誤を論じる。)
2L後期期末 売上金、監禁、途中参加者。
エ 2L期末 当日の売上金の共謀→実行犯は月の売上金強取。金額明示。強取の共謀で監禁は射程内か。途中から参加した丙の幇助行為、丙の強盗行為は射程内(順次共謀?)か。
(3)教唆犯(61条) (教唆行為、実行行為、正犯が構成要件に該当し、違法であること、を頭の中で考える。)
ア 教唆とは、犯罪意思のない者に犯罪意思を生じさせ、それに基づき犯罪を実行させることである。暗記する。
かかる定義から、片面的教唆を肯定する。過失の教唆は故意なく否定する。
犯意を継続した場合、条件関係、つまり教唆の因果関係がある。新たな犯意により実行した場合は条件関係がない〔90〕。
イ 未遂の教唆 甲の行為は未遂罪の教唆犯の客観的構成要件に該当する。では、教唆の故意はあるか。
故意とは、犯罪事実の認識認容である。教唆の処罰根拠は、共犯者が正犯を通じて間接的に法益侵害を惹起したことにある。そして、正犯の法益侵害には実行行為だけでなく結果も含むから、結果を惹起することの認識認容も必要である。
したがって、結果の認識認容が無い以上、未遂罪の教唆犯の故意に欠け、未遂の教唆は成立しない。
(4)幇助犯(62条) (幇助行為、正犯の実行行為、正犯が構成要件に該当し、違法であることを頭の中で考える)
ア 幇助とは、正犯の実行を容易にする行為である。
これは不作為によっても可能である。ただし、作為義務は当然に必要であるから、保証人的地位が必要である。
イ 幇助と正犯行為との間には因果性が要求される(実行行為と結果との因果関係は正犯で吟味される)。物理的因果性、心理的因果性の両方の事情を当てはめる。
ウ 共同正犯において、共謀の射程外であるとか、共謀がないとされた場合に、幇助犯を検討する。
幇助とは正犯の実行を容易にする行為である。本問では、甲乙間に意思連絡がないが、甲の行為によって乙の詐欺が容易になっているので、甲に詐欺罪の幇助犯の客観的構成要件がある。
(しかし、甲は詐欺罪の共同正犯の故意である。客観たる軽い罪に対応する故意があるか、検討する。(H25予備)R重い罪の故意で軽い犯罪 注意:共犯の構成要件の重なり合いの場合、抽象的事実の錯誤とは言わない。)

3 共犯の諸問題
(1)共犯と身分 (事後強盗、横領、背任、偽造罪、虚偽公文書作成、業務上○○、などの共犯の場合に論じる。)
ア 身分とは、一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態である。
イ 「身分によって構成すべき犯罪」「身分によって特に刑の軽重がある」という文言を素直に解釈し、65条1項は真正身分犯の成立と科刑の連帯作用を規定し、2項は不真正身分犯の成立と科刑の個別作用を定めたものと解する。
論文ではなぜその身分が真正身分なのか(この身分があってはじめて犯罪成立)、不真正身分なのか(この身分がある場合は加重類型となる)を示す。例:…であって初めて犯罪が成立するものであるから…は真正身分である。…である場合に、基本犯の○○罪の加重類型となるので、…は不真正身分である。
ウ 65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれると解する。非身分者も身分者を利用して身分犯の保護法益を侵害することができるし、条文の文言も共同正犯を排除していないからである。
エ この2つはセットで常に書けるようにする。条文処理は、(65条○項、60条、○○条)である。65条を忘れない。
(2)関与類型間の錯誤 単独正犯、共同正犯、教唆、幇助は、いずれも構成要件該当事実惹起の行為類型であるから、軽い行為類型の限度で構成要件の実質的符合があるといえる。例:そこで、幇助犯の故意があるといえる。以上より、幇助犯が成立する。
(3)承継的共犯 (共謀の当てはめをした後に書く。)
ア 丙は、甲の行為後に参加している。そこで、先行者の行為についても後行者に責任を負わせることができるか。承継的共同正犯の成否が問題となる。
共同正犯において一部実行全部責任が認められる(60条)根拠は、結果に対する因果性の寄与に求められる。そこで、先行者の行為については因果性が及ばない場合、後行者に帰責させることはできないので、承継的共同正犯は否定すべきである。他方、先行者の行為について因果性が及び得る場合、共同正犯を肯定し得る。
本問では、甲は暴行により反抗抑圧状態という中間結果を発生させている。かかる結果は甲の暴行によるものであり、丙が参加した時点でも残存しており、丙がこれを利用することにより「強取」という結果に因果性を及ぼしたといえる。
イ 甲による傷害の結果は既に生じており、乙の暴行によって因果性を及ぼすことができるものではない。したがって、甲の行為に因果性が及ばないので、承継的共同正犯は成立しない。
では、207条が適用されないか。207条はあくまで「疑わしきは被告人の利益に」の例外規定であり、適用は厳格に解する。207条は傷害・死の結果について帰責される者がいない場合にのみ不都合を回避する規定であると解する。本問では、先行者甲が傷害結果について責任を負う。したがって、本問では適用されない。
ウ 即成犯と状態犯は結果発生により犯罪成立と同時に終了する。強盗罪において暴行・脅迫により反抗抑圧状態が生じれば(財物奪取により犯罪が終了する前に)、この中間項を利用して、「強取」という結果に因果性を及ぼすことができる。しかし、窃盗や傷害のように中間項がなければ、犯罪結果に対して因果性を及ぼすことができない。(事後強盗罪は身分犯のはなしである。承継的共同正犯ではないので注意)継続犯なら実行行為の継続がある以上、当然に共同正犯。
(4)離脱 共犯者をやめさせようとした場合、現場から離れた場合 
ア 共同正犯からの離脱が認められるか。離脱が認められれば、それ以降の行為・結果について責任を負わないため問題となる。
共同正犯において一部実行全部責任が認められる(60条)根拠は、結果に対する因果性の寄与に求められる。そこで、因果性が切断された場合に、離脱を認める。
A:①行為者の与えた因果性と、②それに応じた防止措置が採られているかを判断する。
実行の着手前であれば心理的因果性があると判断し(①)、翻意して離脱の意思を表示し、他の共犯者が了承すれば(②)離脱を認める。影響力の強い者なら、①の心理的因果性が強く、②は無理にでもとめなければ認められない。実行の着手後であれば、他の共犯者の実行行為を継続するおそれを取り払わない限り、②は認められない。
第三者による共犯の解消もありうる。
イ 共謀が認められる第1行為については正当防衛が成立する。(まず、第1行為だけで相当性を認定する。)
この場合、正当防衛をなすことは許されている以上、適法行為を行う共同意思からの離脱の問題ではない。そこで、第1行為と第2行為を一体として(防衛行為の相当性を)考慮するには、第2行為について新たな共謀が必要である。
又は、第2行為について罪責を負わせるには新たな共謀が必要である。
ウ なお、第1行為に正当防衛が成立しない場合は、共謀の射程を論じるか、第2行為が当然に共謀の射程内でそこからの離脱を論じさせる問題か、がありうる。
(5)結果的加重犯の共犯 (基本犯についてのみ共犯が成立し、一方の行為により結果が発生した場合)
ア 狭義の共犯の処罰根拠は、正犯の実行行為を通じて間接的に法益侵害・危険を惹起する点に求められる。そして、結果的加重犯は基本犯の中に加重結果が発生する高度の蓋然性が内包されている犯罪である。とすれば、基本犯につき共犯が成立すれば加重結果についても間接的な法益侵害惹起が認められ、共犯も成立し得る。
イ 共同正犯において一部実行全部責任が認められる根拠は、結果に対する因果性の寄与にある。そして、結果的加重犯は基本犯の中に加重結果が発生する高度の蓋然性が内包されている犯罪である。基本犯について共同犯行の合意が形成されていれば、加重結果に対し相互に心理的因果性を及ぼしたということができ、共同正犯も成立し得る。
ウ 結果的加重犯の加重結果について責任主義の見地から過失が必要であると解する。本問では…Aの死亡結果につき少なくとも予見可能性はあるといえ、注意義務違反が認められる。以上より、過失がある。
判例は不要としており、書きやすい。
(6)因果関係が不明であり、過失犯の単独正犯が成立しない。そこで、過失犯の共同正犯の成否が問題となる。
過失とは結果予見可能性と回避可能性を前提とする結果回避義務違反、すなわち注意義務違反をいうが、共同の注意義務が課せられていれば、それに共同して違反することは可能である。
したがって、共同の注意義務が課せられ、それに共同して違反した場合には、過失犯の共同正犯が認められる。(仮に上下関係がある場合、下位者は上位社を監視する義務がない以上、共同義務が発生しない。)
(7)予備罪が可罰的とされている場合、実行行為性が認められるので、予備の共同正犯・共犯の成立を認めるべきである。

Ⅴ 罪数 罪数において着目すべき点は、①法益侵害、②行為の個数である。法益侵害と意思が1個であれば包括一罪となる。
数罪が成立する場合において、それが社会通念上、一個の行為と評価できるときは観念的競合となる(54条1項前段)。
数個の行為が通例手段結果の関係にあるときは牽連犯となる(54条1項後段)。
社会通念上一個の行為ではなく、通例手段と結果の関係にないなら併合罪となる(45条前段)。併合罪の場合理由不要。


Ⅰ財産罪 1総説  2窃盗罪  3強盗罪  4事後強盗  5詐欺罪  
6恐喝罪  7横領罪  8背任罪  9盗品等関与罪  10毀棄罪
Ⅱ個人的法益 1生命 2身体 3自由 4その他  Ⅲ社会的法益  1放火罪 2文書偽造罪
Ⅳ国家的法益 1公務執行妨害罪 2逃走・犯人蔵匿等 3収賄

 

Ⅰ財産罪
1総説
(1)財物 他人の財物に、無主物、納棺物は含まれず、禁制品は含まれる。没収には一定の手続を要するのであるから、その限度で財物性を認めることができる。盗取罪では電気も財物に含まれる(245条)。預金通帳やカードも財物に当たる。
財物には財産的価値が必要である。経済的価値は必須ではなく、所有者・管理者の主観的価値、他人の手に渡ると悪用されるおそれがあることから自分の手元におく利益でもよい(例:失効した運転免許証)。
情報それ自体は実体を観念し得ない以上、財物には当たらない。(→2項犯罪、背任罪の検討)ただし情報媒介物は(情報と媒体が合体したものとして)財物性が肯定され得る。
(2)奪取罪の保護法益
ア. Aは財物に対して適法な権原を有していない。かかる者の占有も保護に値するか、奪取罪の保護法益が問題となる。(問題となる場面:自己物の取り戻し、盗品の奪取のみ 窃盗なら①他人の財物、の要件で検討すべき)
現代社会に顕著な所有と占有の分離に鑑みれば、占有それのみを保護する必要性・合理性がある。そこで、奪取罪における保護法益は占有そのものであり、適法な権原に基づくことを要しないと解する(占有説)。
イ. もっとも、これでは不法な利益でも保護することになり、法益保護という刑法の目的に反する。
そこで、①正規の救済手段では回復が間に合わない状態で、②占有侵害者の目的が正当であり、③その手段が相当なときには、社会通念上占有者に受忍を求める限度での占有侵害と判断し、窃取行為の違法性を阻却すべきと解する。
ウ. 甲はAの占有を侵害している。さらに、確かにその目的が盗まれた物を取り返すという正当なものではあるが、そのためにAの住居に侵入しており、住居侵入罪(130条)の構成要件に該当する行為を相当な手段として、社会通念上占有者Aに受忍を求める限度での占有侵害と判断することはできない。したがって、甲に窃盗罪(235条)が成立する。
(3)不法領得の意思 一時利用の場合、捨てる、隠す目的の場合に論じる。
ア. 不法領得の意思とは権利者を排除して他人の物を自己の所有物とし(権利者排除意思)、その経済的用法に従い利用処分する意思(利用処分意思)のことである。前者が使用窃盗の不可罰性を基礎づけ、後者が領得罪と毀棄罪とを区別する点で、不法領得の意思を必要とすべきと考える。
イ. 権利者排除意思は使用窃盗と窃盗罪を区別する基準であるから、その有無は、①占有者による利用の可能性と必要性、②予定された利用妨害の時間、③物の価値、という考慮要素を考慮する
ウ. 確かに甲に返還意思はある。しかし、5時間半もの長時間の利用意思があり、目的物は時価250万円という比較的価値の高いものである。しかも事件発生時は昼ごろで場所は給油所駐車場であったことに鑑みれば、その後Aが利用する可能性は十分にあったといえる。これらの諸要素を考慮すれば、甲のA車の使用態様は賃貸借又は使用貸借によらなければならないものであり、甲に権利者排除意思が認められる。したがって、不法領得の意思がある。
エ. 毀棄目的の占有侵害よりも財物を利用処分する目的で占有を侵害するほうが、利欲的ゆえに類型的に責任が重い。利欲犯を重く処罰するために(235条、261条参照)区別されていると解することができる。そこで、利用処分意思の有無は①利得動機、②物の用法によって決する(経済的動機が無く、物の本来的用法では無い場合にのみ利用処分意思が否定される)。
オ. 本問で甲が貴金属類を持去ったのは自己の犯行を隠すためであり、利用処分意思が認められない。よって不法領得の意思がないために、甲に窃盗罪は成立せず、貴金属類を捨てた行為につき器物損壊罪(261条)が成立する。
甲は、Aの壷を持ち出した時点ではそれを壊すつもりでいた。壷によって何か利得を得ようというのでないし、それに、壷を壊すというのは壷本来の使い方ではない。よって甲に利用処分意思が認められず窃盗罪(235条)は成立しない。しかし、その後甲は壷を本来の用法どおり床の間に飾っているため利用処分意思が認められる。もっとも、この時既に壷は甲の占有にある。よって自己の占有する委託関係にない他人物を横領した甲には占有離脱物横領罪(254条)が成立する。
カ. バイクのいじり方をこどもに教える意思でバイク窃取→利用処分意思○ 乗っていれば当然にあるし、バイクそのものを利用して教えるのだから、ある。
キ. 利用処分意思がないとして窃盗罪を否定した後、私用文書毀棄罪(259条)、器物損壊罪(261条)などの成否を検討することを忘れない。

2 窃盗罪(235条)
要件は、①他人の動産、②窃取、③不法領得の意思である。(①について占有説上述)
(1)「窃取」とは、財物に対する他人の占有を侵害し、それを自己又は第三者の占有下に移すことである。
ここでいう占有とは財物に対する事実上の支配をいい、占有の事実と占有の意思を総合して判断する。
ここで占有の有無を検討しているのは、あくまで「窃取」に該当するかどうかを確かめるためであることを常に意識する。
ア. 占有の有無、占有取得の有無(既遂時期)は客体の大きさ、財物搬出の容易性、占有者の支配の程度を考慮して社会通念により判断する。
周囲の状況に関して、排他性のない一般的な場所で握持又は監視がなければ原則として占有の事実は認められない。ただし、握持監督の喪失が目の届く範囲内にとどまるときには、財物が短時間で現実的支配を及ぼし得る場所的範囲にあり、占有を認め得る。
例:カメラはバスの待合室という排他性のない一般的な場所に置いてあり、Aはそれを手離し監視もしていない。しかし、その握持・監視の欠如はカメラを忘れた地点から約20メートル、約5分にすぎず、目の届く範囲内でのごく短時間に止まり、走ってすぐにとりに戻れる。カメラに対するAの占有の事実がある。
例:財布はスーパーのベンチという排他性のない一般的な場所に置き去られている。さらにAは6階から地下1階まで移動しており、目の届く範囲内でのごく短時間の握持監視の欠如とはいえず、すぐにとりに戻ることはできない。Aに占有の事実は認められない。また、このような排他性のない場所での忘れ物については、スーパーの管理者も占有しているとはいえない。したがって、当該財布は甲が持去った時点で無占有物であり、甲には占有離脱物横領罪(254条)が成立する。
旅館・デパートの中で不法領得の意思が生じた場合、旅館・デパートの占有下にある。忘れ物の事案とは異なる。
イ. 窃盗罪では、誰が占有をしているのかがよく問題となる。横領罪との区別が問題となる。占有の所在を誤信すれば錯誤を論じる。
問題を解く上でも、占有者は会社なのか、どの従業員なのか、などを意識するとよい。例:新司H21
例:倉庫の物をいったん借りるといって、管理者がそれを承諾し「すぐ戻せよ」といったら、未だ管理者の占有下にある。
共同占有の場合、各人に占有が認められる。上下・主従関係がある場合、占有補助者ないし監視者にすぎない(例:コンビニ店員、倉庫番)。旅館が浴衣を貸す場合など、一定の領域の支配者に占有が認められるが、外出中に領得意思を生じた場合には占有離脱物横領(254条)とするべきである。
例:封筒全体の占有者は受託者である。なぜなら、受託者は委託者から一定の範囲で包装物を自ら処分する権限を与えられており、単なる占有補助者でなく封筒全体を事実上支配しているからである。これに対し、封の意図は内容の披見及び処分を禁じるものであるから、内容物の事実上の支配は受託者を手段として委託者に留保されていると解する。
例:共犯者と逃走中に有する賍物は共犯者との共同占有
ウ. まず、Aがバッグを占有しているとはいえない。なぜならバッグは持ち運びが容易であり、また、開館前の劇場は排他的支配性が強く、さらにAが忘れてからかなりの時間が経っているため、Aに占有の事実が認められないからである。
では劇場の管理者が占有しているとはいえないか。この点、上述の通り開館前の劇場は排他性が強く、しかも当該バッグはまさに管理者の管理すべき劇場内にある。そこで当該バッグは劇場の管理者が占有しているといえる。
よって、バッグに対する劇場の管理者の占有を侵害し、それを自己の占有下においた甲には、窃盗罪(235条)が成立する。
エ. 預金による占有の有無は、正当な払い戻し権限の有無を検討する。名義人から窃取、強取、喝取したカードを使用する場合、カード会社を詐取した場合で名義人の承諾がある場合でも、正当な払い戻し権限はない。
(2)(殺害後に領得意思が生じた場合に論じる。) 死者に占有の意思はない。とすれば被害者死亡の時点で、被害者の身辺の物は無占有物となり、かかる物を取得した者には占有離脱物横領罪(254条)が成立するのが原則である。(死んだと誤信して窃取した場合は、故意の中でこのはなしをする。→窃盗の故意が認められないとも思える。)
しかし、殺害者は自らの殺害行為を利用して財物取得に及んでいる点で法的評価において第三者とは一線を画し、殺害による占有侵害と占有取得とを一連の行為として評価できる限り、そうするのが合理的である。
そこで、①被害者を殺害した犯人との関係では、②殺害行為と財物取得行為が時間的場所的に近接して行われたときには、被害者の生前の占有は保護に値し、占有奪取があるといえ、窃盗罪が成立する。
(3)窃盗犯人が盗品を処分しても、既に評価された法益の範囲内である限り、共罰的事後行為となる。ただし、新たな法益侵害が認められる場合には、別罪が成立する(ex.窃取した通帳でATMor窓口から払戻しを受ける)。
(4)親族相盗例 ア.  親族(244条1項の特例で免除される者):配偶者、直系血族又は同居の親族
親族相盗例(244条1項)は、251条・255条により詐欺罪・横領罪等にも準用される。
免除の範囲を明確にするべく、内縁の配偶者には適用されない。同居の親族とは、同じ住居で、日常生活を共にしている者をいい、家屋内の一室を賃借している場合、一時宿泊しているにすぎない場合は含まれない。
イ. 占有説をとっても、所有権が保護法益であることを否定しないから、財物の所有者と占有者が異なる場合、どちらも被害者であり、両者との間に親族関係が必要である〔33〕。
ウ. 244条1項の趣旨は、「法は家庭に入らず」という政策的観点から一身的に処罰を阻却する点にある。
行為者が誤信していたとしても、親族関係は処罰阻却事由であるから、故意の対象とならない。
エ. 親族であっても、後見人には244条は適用されない。後見人として選任された以上、後見人と被後見人との間には公的制度によって規律される関係が構築されており、既に「法が家庭に入った」状態にあるので、244条を適用する前提に欠くからである。
(5)不動産侵奪罪(235条の2)の要件は①他人の不動産、②侵奪である。(客体が不動産である以外は、窃盗罪と同様)
侵奪には、不動産に対する事実的な支配の侵害が必要であり、登記の改ざんや不正取得の問題は横領や偽造などを論じる。不動産の賃借人が契約終了後も居座っているだけでは侵奪がなく、質的変化が必要である。

3 強盗罪
236条1項の要件は、①他人の財物、②強取である。(②暴行脅迫、②´相手方の反抗抑圧、②´´財物の移転)
(1)強取とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫により、相手方の反抗を抑圧し、財物を自己または第三者に移転させることをいう。
暴行・脅迫(実行の着手時期)の考慮要素:被害者の生命身体に及ぼす危険性、暴行の態様・執拗性、被害者が反抗しているか、周囲の状況等
ア. 甲は右手でA女の口、鼻を約20秒間にわたりふさいで転倒させたにすぎず、これによってA女の生命身体に重大な被害が及ぶ恐れは少ないし、行為の執拗性も認められない。深夜ということで救助を求めることは容易ではなかったかもしれないが、人家の建ち並ぶ住宅街であればそれほど困難であったということもできない。Aも現実に抵抗している。以上より、甲の暴行を相手方の犯行を抑圧する手段ということはできない。実行の着手たる強取が認められないので、強盗罪(236条1項)は成立しない。
そこで甲の行為を暴行と窃取にそれぞれ分けて考える。暴行についてはA女が加療3日間の怪我を負っていることから、傷害罪(204条)が成立し、窃取については窃盗罪(235条)が成立する。両者は併合罪となる(45条前段)。
イ. 甲はAの顔面という人間にとって非常に重要な器官が集中する箇所をしかも数回殴打しており、Aの生命・身体に対する危険性が高いことや行為の執拗性が甚だしいことからすれば、甲の行為はAの反抗を抑圧するに足りる暴行といえる。よって甲の行為は強盗罪の実行の着手に当たる。
ウ. 暴行・脅迫と財物奪取という二つの行為を、強取という一つの行為として評価するには、両者が主観的に関連していることが必要である。したがって、②暴行脅迫は財物奪取の手段として行われたものでなければならない。
(成立しないことを述べる場合があるので、忘れないように。)
反抗抑圧状態に陥った後に財物奪取の意思が生じた場合には、原則として窃盗罪となる。もっとも、財物奪取の意思を生じた後でさらに暴行・脅迫を加えた場合には強盗罪が成立し得る。そして既に被害者が反抗抑圧状態に陥っている以上、暴行・脅迫は、通常の場合に比して程度の低いもので足り、また、自己の作出した反抗抑圧状態を継続させるものであればよい〔39〕。
エ. 強盗罪は交付罪ではなく盗取罪であり、相手方の意思に反する財物の移転が本質である。そこで、反抗抑圧という要素は本質的なものであり、これがなければ因果関係が否定されて未遂となると解する。
オ. その他 強盗罪の既遂時期は、財物奪取の時点である。反抗抑圧の結果交付でも強取(H20新司)。放置した、気づかないときも強取。
窃盗既遂の後の暴行・脅迫は、事後強盗や2項強盗を検討する。
(2)強盗利得罪 強盗利得罪(236条2項)の要件は、①財産上の利益、②強取(②暴行脅迫、②´反抗抑圧、②´´財産上の利益の移転)である。
ア. ③財産上の利益の移転について(及び①強取について)。
強盗罪は盗取罪であって交付罪ではないから、被害者の処分行為は不要である。しかし、財産上の利益は無形であるから、あいまい不明確な利益まで含めれば、犯罪成立範囲が広がりすぎる。そこで、1項強盗罪と同視できるだけの利益移転の具体性及び確実性がなければならない。仮に、利益移転の危険性がない行為は、そもそも①強取とはいえない。
(ア)甲と共謀のある乙は殺人罪(199条)などの共犯で罰せられるが、これは民法891条1号の相続欠格事由に当たる。とすれば、乙は遺産を相続できなくなってしまうため、利益移転の確実性はない。利益移転の危険性がない甲の行為は、①強取とはいえない。
(イ)債権者Aには長男Bがおり、しかも丙の借り入れの事実を証明する書類が多数残されていたことからすれば、いずれBからの請求により結局丙は債務を免れることはできないのであるから、利益移転の確実性は無いようにも思える。しかし、債務の一時支払免除は236条2項の「利益」に含まれる。丙はAからその返済を激しく迫られており、すぐその場での支払わなければいけない切迫した状態にあった。かかる切迫した状態を免れるためにAを殺害する行為は、債務の支払いを一時的に免れることができる点で利益移転の確実性があった。したがって、丙の行為は①強取に当たる。
イ.  禁制品の返還請求の免責も、③財産上の利益といえるか。不法原因給付がなされた場合、民法上返還請求権は発生しない(民法708条)。にもかかわらず強盗利得罪を成立させれば、民法上保護されない利益を刑法上保護することになり、刑法の謙抑性に反する、法秩序の統一を破るのではないかという問題がある。
この点、民法は当事者の公平の観点から妥当な結論を図るのに対し、刑法は社会秩序を守るためのものである。そこで、両者の責任は独立に論じるべきであって、民法上保護されない利益も財産法秩序を維持するために刑法上保護されると解する。
ウ. 先行する1項犯罪と後行の2項犯罪との関係をいかに解するか。
確かに、1項犯罪によって取得した「財物」と、2項犯罪におけるその返還を免れる「利益」は、経済的にも法律的にも別個のものであるので、原則として両者は併合罪となると考える。しかし、ここでいう財物と利益は確かに形式的にみれば別個の法益であるが、実質的には同じ財物への評価にすぎず同一の財産侵害が二重に評価されている。この場合、取得した財物によって生まれた債務の免脱を暴行脅迫によって確保している点で、事後強盗罪と類似の構造を有している。そこで、暴行脅迫が財物の取得と同一の機会に近接した場所で行われているときに限り、両者を包括して評価し2項強盗罪のみが成立し得ると解するべきである。
エ.(ア)乙はAを殺して覚せい剤を得ようとしているため、強盗罪(236条1項)に基づく強盗殺人罪(240条)が成立するとも思える。しかし、強取は財物奪取の手段としてされなければならない。本問では乙の狙撃が覚せい剤を奪う手段としてなされていない。よって乙の行為は、強取に当たらず、強盗罪は成立しない。殺人未遂罪(199条、203条、43条)が成立する。
(イ)乙はAを狙撃して覚せい剤の返還債務を免れているが、これは強盗利得罪(236条2項)の実行行為に当たるか。
禁制品の給付には不当利得返還債務が認められない(民法708条)。仮に「財産上不法の利益」に当たるとすれば、刑法の謙抑制に反し、法解釈の統一性を破る。しかし、禁制品に対する占有も財産法秩序を維持するには刑法上保護に値する。そこで、かかる債務を一時的に免れることも「財産上不法の利益」とみなすべきである。乙はAを殺して「財産上不法の利益」を得ようとしたので、強取が認められる。しかし、結局Aを殺せなかった。I:故意ある場合の240条の適用が可能か。
以上より、強盗利得罪に基づく強盗殺人未遂罪(240条、243条)が成立する。
(ウ)殺人未遂罪と2項強盗殺人未遂罪との関係は、保護法益が同一であり、両者が時間的場所的に近接していることから、包括一罪になると解する。したがって、2項強盗殺人未遂罪のみが成立する。
オ. キャシュカードを窃取した後に、「Xを数回殴打して反抗を抑圧し、暗証番号を教えるように迫った。」結果Xが教えた。という事例について強盗利得罪が成立するか。(東京高裁平21・11・16)
キャッシュカードと暗証番号を有する場合、犯人はATMの簡単な操作だけで迅速かつ確実に預貯金の払い戻しを受けることができる。キャッシュカードと暗証番号を併せ持つことはそれ自体、財産上の利益とみるべきである。キャシュカードを窃取した犯人が暗証番号を聞き出した場合、預貯金の払戻しを受け取る地位という財産上の利益を得たものというべきである。
2項強盗罪が成立するには、財産上の利益が直接移転する必要はなく、行為者が利益を得る反面、被害者が財産的な不利益を被る関係があれば足りる。本件では犯人が上記地位を得る反面、被害者は自らの預金を被告によって払い戻されかねないという事実上の不利益、すなわち、預金債権に対する支配力が弱まるという財産上の損害を被る。よって、財産上の利益の移転が認められる。
(3)240条 ア. 要件は、①強盗、②機会、③人を殺傷したことである。③殺した、などの当てはめを忘れない。
240条は、強盗の機会に人を殺傷することが刑事学上顕著であることに鑑み、かような行為から人の生命・身体を特に保護するために設けられた規定である。そこで、既遂時期は殺傷の未遂・既遂を基準に判断する。
イ. 240条は、強盗の機会に人を殺傷することが刑事学上顕著であることに鑑み、かような行為から人の生命・身体を特に保護するために設けられた規定である。そこで、死傷は強盗の機会に生ずれば足りる。(もっとも、強盗と関連性の薄い死傷まで強盗の「機会」に含めてしまえば、240条の成立範囲が広くなりすぎる。そこで、強盗と密接な関連性を有する死傷結果に限って、240条の成立を肯定すべきである。)例:逃走途中や、傍で寝ていた子供を殺害した場合は機会といえる。(実行行為から生じた場合には問題にならない以上、論証を書いてはいけない。)
ウ. 故意ある場合 240条は、強盗の機会に人を殺傷することが刑事学上顕著であることに鑑み、被害者の生命・身体の保護を図る趣旨である。240条があえて殺人、傷害の故意犯を除外したとは考えられない。また、「よって」という文言もない。そこで、240条は故意犯を含むと解する。
エ. 強盗致傷罪は基本犯である強盗罪において要求される暴行の程度が高く、傷害が生じることが十分に想定される。また、法定刑が重い。そこで、傷害罪の傷害よりも重度の傷害を要求するべきである。(なお、強姦致傷では軽度でもいい。)
オ. 傷害の故意で傷害が発生しなかった場合、強盗傷人未遂罪は成立しない。傷害の故意があることで未遂減軽が可能となり、かえって軽く処罰するのは均衡を失するからである。
(4)241条 強盗強姦罪(241条前段)は、強盗の機会に強姦が行われた場合に成立し、強姦の被害者は強盗の被害者と同一である必要はない。強盗の着手後に強姦意思が生じても成立する(強盗の必要説と区別)。
殺意をもった強盗犯人が、女子を姦淫し、殺害した場合、241条後段が結果的加重犯であることから、強盗殺人罪(240条後段)と強盗強姦罪(241条前段)との観念的競合(54条1項前段)とするべきである。なお、強姦した者が殺意をもって殺した場合、181条2項が結果的加重犯であることから、強姦致死罪(181条2項)と殺人罪(199条)との観念的競合となる。
強盗強姦未遂(243条、241条)は、強姦が未遂の場合に成立する。

4 事後強盗罪(238条) (窃盗の実行を認めた後に、暴行・脅迫をしていれば、まずはこれを疑う。)
要件は、①窃盗、②目的、③暴行脅迫、④窃盗の機会である。
(1)事後強盗罪は、窃盗と暴行脅迫を別個に評価せず包括して強盗の一種として論じるものであるが、その根拠は、窃盗の機会に一定の目的で暴行脅迫を加えることが、財物奪取の手段としての暴行脅迫と同視できる点にある。
ア. そこで、③暴行・脅迫は相手方の反抗を抑圧する程度のものでなければならない。
イ. そして、④被害者側から財物奪還や犯人逮捕の可能性が存在している状況であることが必要である。具体的には、被害者側の支配領域から離脱していないことが要件となる。
ウ. ②目的は、ⅰ財物を取り返されることを防ぐ目的、ⅱ逮捕を免れる目的、ⅲ罪証隠滅の目的である。ここ認定忘れない。
暴行脅迫の対象は窃盗の被害者で無くてもよい。
エ. 暴行が行われた場所は窃盗現場から200メートル離れた場所ではあるものの、Aから通報を受けて駆け付けた警察官Bが乙を追いかけ続けていることから追及可能性は残っており、未だ乙が追跡を受けない安全圏に入っていないといえる。よって、暴行は、追跡者の支配領域の下、窃盗の機会に行われているといえる。 (公務執行妨害とは観念的競合)
オ. 事後強盗罪は財産犯であるから、既遂と未遂の区別は財物奪取の有無によって決する。窃取が未遂なら事後強盗の未遂罪(243条・238条)が成立する。致死傷(240条)とは異なる。
(2)身分犯と事後強盗 事後強盗罪(238条)は、その主体が「窃盗」でなければならない。甲の窃取について関与しない乙は窃盗の共犯が成立しない以上、事後強盗罪は成立しないとも思える。
しかし、ここでいう「窃盗」は身分、すなわち一定の犯罪行為に関する犯人の特殊の地位・状態に当たると解するところ、65条が適用され、甲に事後強盗罪が成立する限り乙にもその共同正犯(60条)が成立しないか。
65条1項は真正身分犯についての成立と科刑の連帯的作用を規定し、2項は不真正身分犯についての成立と科刑の個別的作用を規定したものと解する。事後強盗罪は「窃取」という身分があって初めてなしうる財産犯であるから、65条1項の「身分によって構成すべき犯罪」に当たる。また、65条1項の「共犯」は共同正犯も含む。
よって、窃盗につき共謀のない乙にも共同正犯が成立し得る(65条1項、60条、238条)。
(3)その他 事後強盗罪の予備も可罰的である。
判例(青本301頁 大塚直前5回):物を盗った後に暴行を加えても、それが占有確保のための手段である場合には、1項強盗が成立しうる。(考え方:占有奪取の手段ではなく、占有確保の手段でもいい。)例:掛軸を奪取し終わってなくて→暴行(この間鞄放置 居直り強盗見たいな感じ)→日本刀も奪取した場合、まとめて1項強盗。学説:あくまで事後強盗、2項強盗とする。

5 詐欺罪(246条)
(1)1項詐欺罪の要件は、①欺く行為、②錯誤、③交付行為、④財物の移転、⑤財産上の損害であり、これらの間には因果関係が必要とされる。2項詐欺は④を財産上の利益の移転、とするが、利益移転の確実性、具体性が要件である。
甲はAを騙して10万円を交付させようとしており、詐欺罪の実行の着手が認められる。しかし、Aは錯誤に陥っていない。行為と結果との間に詐欺罪の予定する因果関係が認められない。詐欺未遂罪(246条1項、250条)が成立する。
(2)①欺く行為 ア. 欺く行為とは、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることである。
財物の交付により交付目的を達成できたかどうかを検討する。(財産的見地から考える取引の目的である。財物の交付により何をしようとしているのか、その目的を達することができたかを検討する。)
例:盗品であることを秘して質に入れようとした場合、断られても詐欺未遂罪。
詐欺罪における①欺罔行為は③財産の交付に向けられたものでなければならない(上の因果関係に同旨)。相手方が錯誤に陥り財産を移転させるおそれ(法益侵害惹起の危険性)のない行為は、そもそも詐欺罪の実行行為たる欺罔行為とはいえない。
イ. 会員に支払意志ないこと(会員でないこと)を知りながら販売した場合には、クレジット会社は信義則違反を理由として代金の立替払いを拒み得ると解する。そうすると、会員の支払能力(会員か否か)は交付の判断の基礎となる重要な事項であるといえる。又は、クレジットカードは会員の支払能力に応じて交付されるものである。
ウ 横領物返還免責のための欺く行為は不可罰である。
エ. 丙が店員に手を差し出していることから、お釣りの過多についての危険の引き受けが認められる。釣銭の多寡を丙は知っていたが、Aはそれに気づいておらず、丙がそれを告げなければ釣銭が全て丙のものになることは確実といえる状況であったため、丙に金銭についての排他的支配可能性がある。また、告知は容易に可能であった。不作為による欺罔行為が認められる。
(3)③交付行為 ア. ②錯誤という内心の状態によって④財産が移転するはずはないので、錯誤と財産移転との間の因果関係を示すものとして③処分行為が必要である。そしてこの③処分行為は、無意識的な処分ではなく交付意思の伴うものでなければならない。なぜなら詐欺罪の本質は被害者の瑕疵ある意思に基づく財産の交付にあるからである。
宿泊客の甲が今晩必ず帰るからとAを欺いた場合、Aに処分意思は認められる。なぜなら、Aの発言の時点で代金の支払いが問題となっており、甲が外に出るのを見逃すということは代金の支払いを一時的に免除する黙示の意思表示があり、これは246条2項の「財産上の利益」を与える意思を示すからである。
イ. ③交付行為は被害者の意思に基づくものでなければならない。被欺罔者・交付者と被害者が異なる場合には、交付が被害者の意思に基づくものとはいえないので、原則として詐欺罪が成立しない。しかし、被欺罔者が被害者により当該財産を処分できる地位を付与されていたときには、かかる者の交付も被害者の意思に基づくものといえ、詐欺罪が成立し得る。
論じる例:同居者(事37)
ウ.  登記官にAの不動産の所有権を処分する権限を与えられておらず、移転登記はAの意思に基づくものとはいえないので、詐欺罪は成立しない。(なお、登記官に不実の移転登記をさせているので、公正証書原本不実記載罪(157条1項)及び同行使罪(158条1項)が成立する。両者は通例手段と結果の関係にあるので牽連犯となる。)
エ. 甲がAを騙した時点で既にブレザーは甲が着ており、甲の発言によってAがブレザーを交付する危険性はない。よって、甲の発言はそもそも詐欺罪の実行行為とはいえず、詐欺罪は成立しない。甲は衣料品店店長Aの占有が弛緩した隙にブレザーを自己の占有下に移しており窃盗罪(235条)が成立する。
H26予:占有取得のため相手方がさらに占有移転行為(例:持ち出すことの承諾又は会計)を行う必要があるか否かにより判断する。これがあれば、占有の移転はなく、占有の弛緩が生じたにすぎず、占有者の意思に反する占有移転により窃盗罪が成立する。
オ. 財物と被告人を玄関に残してトイレに行った場合、占有移転の認識(交付意思)がないので、未遂としてもいいだろう。
鍵を渡し単独試乗させた時点で、処分意思に基づく処分行為があるといえる。
(4)⑤財産上の損害 注:①欺罔行為の要件の判断になりうる。
ア. 246条によれば詐欺罪の成立に財産上の損害は要求されていないが、詐欺罪が財産犯である以上、何らかの財産上の損害は必要である。詐欺罪の本質は被害者の瑕疵ある意思に基づく財物利益の移転にある。たとえ形式的には個別財産を喪失したとしても、交付意思に経済的瑕疵がなければ実質的にみて損害はないはずである。そこで、個別財産の喪失によって経済的観点から取引目的を達成できなかったときに限り、財産上の損害を認める。
イ. 代金を不当に早く受領した場合には詐欺罪が成立する。そのためには、社会通念上別個の支払に当たるといい得る程度の期間支払時期を早めたものであることを要する〔47〕。財産移転についての実質的な法益侵害が必要だからである。
ウ.  Aは定価2000円の書籍を定価で販売しており、書籍を喪失しているものの、経済的観点から見て取引目的を達成している。甲の発言は何ら財産上の損害を発生させる危険性がないので、欺罔行為とはいえない。
エ.  本問では、保険証の損失を、市の財産上の損害と解することができる。なぜなら、保険証は財産的給付を取得し得る地位を付与する文書であるところ、かかる文書を入手することでXは財産を享受できることが可能になり、反面、財産上の損害も確定するからである。
オ. 空港の搭乗券を別の者に渡すことを秘して交付を受けた場合(基礎M2-126) 航空券に氏名が記載されている乗客以外の者の航空機への搭乗が航空機の運航の安全上重大な弊害をもたらす危険性を含む。不法入国防止のために当該乗客以外の者を航空機に搭乗させないことが義務付けられていた。もし分かっていれば乗せなかった。したがって、搭乗券の交付を請求する者自身が航空機に搭乗するかどうかは、交付の判断の基礎となる重要な事項である。→①欺罔行為あり。
暴力団とゴルフ場(受験新報14/07) 暴力団関係者がゴルフ場を利用すれば、一般客が畏怖するなどして安全、快適にプレーする環境が確保できなくなる。暴力団排除の措置を積極的に採っていた。もし分かっていれば利用させなかった。したがって、暴力団か否かは交付の基礎となる重要な事項である。→①欺罔行為あり。
(5)不法原因給付がなされた場合、民法上返還請求権は発生しない(民法708条)。にもかかわらず詐欺罪を成立させれば、民法上保護されない利益を刑法上保護することになり、刑法の謙抑性に反する、法秩序の統一を破るのではないかという問題がある。
民法は当事者の公平の観点から妥当な結論を図るのに対し、刑法は社会秩序を守るためのものであり、両者の責任は独立に論じるべきである。そこで、詐欺罪が個別的財産の移転の罪であることに鑑み「欺罔行為がなされていなかったならば財物を交付しなかったであろう」という関係が認められる限り、詐欺罪が成立すると考える(ペー1)。
(6)H25予備 何項の詐欺罪が成立するか。詐欺罪の客体を預金債権とするか金銭とするかが問題となる。金銭が口座へ振り込まれた場合、いつでも引き出しが可能であるから、詐欺罪の客体は金銭である。そこで1項詐欺を検討する。
お金が振り込まれた時点で既遂となると考えてよい。
(7)特殊 ア キセル A駅でPに切符を見せる時点では、未だBC間の運賃を支払う義務が生じていない以上、欺罔行為が認められない。D駅でQにキセル乗車を告げなかったことを欺罔行為として不作為による詐欺罪の成否を検討する。
不作為犯の論点→危険の創出。排他的支配可能性。可能性容易性。
処分行為と処分意思の論点→代金支払債務免脱の意思表示がある。
三角詐欺の論点→Qは鉄道会社の従業員で改札を担当する者であり乗客の債務免除の権限を与えられていた。
イ 偽証裁判 弁論主義(民事訴訟法87条1項)→しかし、自由心証主義(同法247条)。裁判所に錯誤あり。
裁判所の判決が処分行為に当たる。既判力を根拠に考える。
三角詐欺→裁判所は判決によって、Aに財産を処分できる地位を付与されている。
(8)2項詐欺の論点で想起すること。 I1:債務の一時猶予も、④財産上の利益に当たる。 I2:④①利益移転の確実性・具体性があるか。「支払請求が相当長期にわたり困難になったこと。」 I3:一時的な債務免脱の意思表示が問題なる場面で、③処分意思、処分行為があるか。 だました場合246条2項でI3が必要になり、暴行・脅迫による2項恐喝・強盗ならI3の処分行為がないだけであり、後は一緒。ここ混乱していた。 〔47〕〔50〕〔54〕〔59〕参照
(9)データ上の数字が変わるだけのときは電子計算機使用詐欺罪(246条の2)を検討する。例:入金、送金。他人の口座から自分の借金返済のために他人の口座へ振替送金する場合
「預金の場合」他人占有であることが前提である(新司H21では246条の2は検討しない。)。
不実電磁的記録作成罪の要件は、①電子計算機、②虚偽の情報・不正な指令を与えること、③財産権の得喪・変更に係る電磁的記録の作成又は供用である。③は預金残高、プリペイドカードの残高が当たるが、キャッシュカードやクレカの磁気部分の記録、不動産登記ファイルは一定の事実を証明するための記録にすぎず、当たらない。

6 恐喝罪(249条)
(1)1項の要件は、①恐喝行為、②畏怖、③交付行為、④財物の移転であり、これらの間には因果関係が必要である。
恐喝罪(249条2項)の要件は、①恐喝、②畏怖、③交付行為、④財産上の利益の移転であり、因果関係が必要。
(2)各要件の検討
①恐喝とは、反抗を抑圧するに至らない程度の脅迫・暴行により、相手方を畏怖させ、財物の交付を要求する行為をいう。
①暴行脅迫は財物又は財産上の利益の交付に向けられたものでなければならない。
①恐喝罪の違法性を基礎づける事実は、財物の取得に当たって人を畏怖させるという不当な手段を使ったことにあり、その手段が適法か違法かを問わない。したがって、適法な行為であっても恐喝といえる。(これが盗品・自己物の喝取であれば、この後、奪取罪の保護法益の論点)害悪の対象に限定はない(友人、第三者でもいい)。
③詐欺と同じく、交付意思が必要であり、三角恐喝も可能である。畏怖して黙認しているのに乗じて財物を奪取した場合、黙示的な交付行為がある。畏怖により請求を断念した場合も、黙示の財産上の利益の移転がある。
主観:交付先が恐喝者以外の第三者であった場合、不法領得の意思を論じる。
範囲:畏怖がなければ交付しなかっただろう場合には、たとえ相当な対価を支払った場合にも、交付されたものの全部について恐喝罪が成立する。交付により移転した個別財産の喪失それ自体が恐喝罪における法益侵害だからである。
(3) 権利行使と恐喝
ア. 他人が不法に占有する自己の所有物を恐喝した場合、占有説を論じる。
イ. 金銭債権を行使した場合、債務者は弁済金の喪失とともに、債務の免責を得ているため、法益の侵害がないのではないかが問題となる。この点、恐喝罪は個別的財産に対する罪であるところ、恐喝がなければ当該処分をしなかったといえる場合には、財物に対する使用・収益・処分する権利が侵害されたといえ、法益侵害が認められる。
ウ. 権利実現のために恐喝が行われた場合、違法性は阻却されないか。社会通念上相当な方法での権利行使は債権者の当然の権利である。そこで、①権利の範囲内であり、かつ、②その方法が社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を超えない限り、正当な行為(35条)として違法性が阻却される〔58〕。
なお、①②を充足する場合、不可罰であり、暴行罪・脅迫罪は成立しない。
(4)他の犯罪との関係 手段である暴行・脅迫につき暴行罪・脅迫罪は成立しない。欺罔と恐喝が併用され、物・財産上の利益の交付が行われた場合、欺罔が畏怖を生じさせる要素を構成し、被害者が畏怖して交付した場合には恐喝罪のみが成立する。錯誤に陥ると同時に畏怖して交付した場合には詐欺罪と恐喝罪の観念的競合とするべきではなく法条競合によりどちらか一罪が成立する。公務員が恐喝により賄賂を要求・収受した場合、恐喝罪と収賄罪の観念的競合となり、被恐喝者には贈賄罪が成立する。ただし、職務執行の意思がなく、職務執行に名を借りて恐喝した場合には恐喝罪のみが成立する。親族相盗例を準用(251条、244条)。

7 横領罪(252条)
(1)総論 頼まれたら横領
横領罪(252条1項)の要件は、①自己占有、②委託信任関係、③他人の物、④横領である。
業務上横領罪(253条)の要件は、①業務性、②自己占有、③委託信任関係、④他人の物、⑤横領である。
横領罪の保護法益は所有権である。二次的法益として委託関係がある。
ア ①業務 ①業務とは、委託を受けて物を管理することを内容とする職務をいう。
成年後見人は、被後見人の財産を管理することが法律上定められているので(民法859条1項)、後見事務も「業務」に当たる。
問題文に「…業務に従事する」や、「従業員」「事務員」といったキーワードが出てきたら、まず業務性を疑う。横領罪だけではなく、業務性にも着目する力を付ける。これがないと、芋づる式に論点を落としてしまうので注意する。
イ ①占有 窃盗罪の客体とならない物についても所有権侵害が可能であるので、①横領罪の占有は処分可能性と同視でき、事実的支配のみならず法律的支配も含むと解する。
登記済不動産については、所有権の登記名義人に法律上の占有がある。預金債権は履行の可能性が極めて高く、預金者はいつでも自由に預金額を処分することができるという特殊性があるので、預金による金銭の占有が認められる。
「預金」→詐欺・横領等が問題になる。
ウ ②委託信任関係 占有離脱物横領罪(254条)の客体が無占有物及び委託関係なくして自己の占有する他人物であるから、これと区別するために横領罪における占有は②委託関係に基づくものでなければならない。
甲は店長であり、店の忘れ物の保管義務(民法697条)を負う。よって、占有移転時にA甲間に委託関係があったといえる。
(ア)I1:所有者との間に必要ではない。
(イ)I2:不法な委託信任関係も保護に値する。
エ ③物の他人性について、民法上の所有権の概念を基礎とし、かつ刑法的な立場からその物に対する要保護性をも併せて考慮すべきである。
(ア)金銭は受領すると同時に民事法上は受領者の所有物となる。しかし、民事法の原則は金銭の流通に関する動的安全を保護するためのものであるのに対し、横領罪の二次的法益は委託信任関係にあるので、それが使途を定めて委託されたものである場合には、受託者が自由に処分をすることは許されない。すなわち、刑法上、寄託者の信頼・信任を保護すべきである。そこで、使途を定めて委託された金銭を費消する場合は、金銭について物の他人性を肯定する。別規範:内部的な所有権保護を目的とする委託物横領罪の解釈にはそのまま妥当しない。また、特定物として金銭を委託した場合との均衡を図るべきである。そこで、金銭の所有権は寄託者にあると解する。ただし、補填する資力と意思を有する場合の一事流用の場合には、不法領得の意思がなく、④横領行為が認められないので、横領罪は成立しない。
(イ)所有権留保の場合、物の他人性は肯定し、残債務決済のために目的物を処分する場合、④不法領得の意思を欠く。
譲渡担保の場合、物の他人性を否定する。
オ. 一度の横領で所有権、委託関係が完全に侵害されたとはいえず、さらに所有権及び委託関係を侵害することができる。そこで、横領後の横領は共罰的事後行為となり、可罰的である。〔67〕
(2)不法 ア 不法原因給付がなされた場合、民法上返還請求権は発生しない(民法708条)。また、その反射的効果として所有権も受給者に移転する。したがって、③物の他人性が否定され、横領罪は成立しない。〔60〕は成立させる。
イ 窃盗犯人から処分を依頼された者(窃盗には正犯として関与していない)が売却して代金着服した。横領罪と盗品等有償処分あっせん罪(256条2項)の観念的競合となる。
(3)④「横領」とは、不法領得の意思を発現する一切の行為であると解する。
ここでいう不法領得の意思とは委託の趣旨に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思である。
当てはめ例:管理している金銭を自己の借金に充てる行為は、委託の趣旨に背いて権限なく所有者でなければできない処分をすることであるので、不法領得の意思を発現する行為といえる。(自己名義又は自己計算であれば○)
ア 未遂犯処罰規定がないことから、不法領得の意思を発現する行為があった時点で既遂とされる。例:預金から引き出す行為、動産売却の意思表示、自己の所有権確認の訴え 不動産では、登記の移転が対抗要件であるから、登記完了により確定的に所有権侵害が生じた段階で既遂とされる。
イ 毀棄隠匿の意思(学説は批判)、一時使用の意思でも不法領得の意思がある。不特定物を一時流用する場合、遅滞なく補填する意思があり、いつでも補填できる資力がある場合、不法領得の意思を否定する。専ら本人のためにする意思である場合否定する(図利加害目的もない)。目的が併存する場合には肯定する。違法行為は会社自体が行えないとしても、専ら会社のためにする行為といえる場合がある。
(4)二重譲渡事例:甲はAに不動産を売却し金銭を受けとったが、登記名義が未だ甲名義であることを奇貨として、Aとの売買の話を隠して同一不動産を乙に売却した。その後甲は乙に登記名義を移転した。
ア. Aに対する横領罪(252条)が成立するか
登記名義が未だ甲にあり、甲がこの登記を自由に移転できることを考えれば、①法律上の占有が認められる。
甲A間で売買契約が締結された時点で甲は登記を保全する義務(民法400条)があるので、②委託関係が認められる。
民事上では契約とともに所有権が移転するが、それでは横領罪の処罰範囲があまりに拡大し、刑法の謙抑性に反する。刑法上保護に値する所有権は、代金の支払いによって移転すると解するべきである。本問では、乙に売却される前にAが甲に代金を支払っているので、不動産につき③Aの所有権が認められる。
甲は自己の占有するAの不動産を、委託の趣旨に反して権限なく処分しており、かつ、甲から乙に移転登記をすることは所有者でなければできない行為であり、これがなされているので、④横領が認められる。
以上より、甲に横領罪(252条)が成立する。
イ. 乙に対する詐欺罪(246条1項)が成立するか。
欺罔行為とは、交付の基礎となる重要な事項を偽ることである。当該不動産が他人物であることを黙って乙と契約した甲の行為は、乙が代金を支払った後に登記をAに移転させれば、乙は土地を取得できなくなり、他人に既に売却しているか否かは交付の判断の基礎となる重要な事項といえる。これを偽っているので、①欺罔行為がある。もっとも、その後に乙に移転登記がなされているので、結果は発生していない。甲に詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立する。
ウ. 乙は背信的悪意者でない限り、民法上、所有権をAに対抗することができる。民事上許容された行為を処罰することはできない(刑法の謙抑性)から、乙が背信的悪意者である場合に限り、横領罪の共同正犯が成立し得る。
(5)占有者という身分、及び、業務者という身分を有しない者が業務上横領罪を共同実行した場合 65条1項と2項の関係→65条の「共犯」に共同正犯は含む→
業務上横領罪は占有者という身分と、業務者という身分を有する者が主体となる。
占有者という身分がなければ、委託に基づく所有権侵害があり得ないので、これは真正身分である。
業務者という身分によって刑が重くなる(252条、253条)ので、これは不真正身分である。
したがって、65条1項により、非身分者にも横領罪の共同正犯(60条、252条1項)が成立する。

8背任罪(247条) 登記を依頼されたら背任(論M79)
(1)要件:①他人のためにその事務を処理する者、②図利加害目的、③背任行為、④財産上の損害である。
背任罪は信任関係に違背する点で横領罪と共通するが、全体財産に対する罪である点で異なる。
①主体は他人のためにその事務を処理する者であって、真正身分犯である。事務は財産的な事務に限る。ただし、単なる使者のように機械的内容のものは含まれない。例:キャッシュカードの使用を許諾された者
二重抵当〔68〕他人の事務 論証:抵当権設定契約をしたとき、設定者は抵当権を設定するまでは抵当権者に協力する義務を負う。かかる協力義務を負う範囲で、設定者は抵当権者のためにその事務を処理する者といえる。以上より、甲は①を充足する。
②図利加害目的とは、自己又は第三者の利益を図り本人に損害を加える目的である。専ら本人の利益を図る目的であれば図利加害目的が否定される〔72〕。図利加害目的には地位保全や信用・面目の維持といった身分上の利益・損失も含まれる。
③背任とは、誠実な事務処理者としてなすべきものと法的に期待されるものに反する行為である。例:不良貸付、不正融資(事39)、担保目的物を登記前に売却すること、情報漏えい。
④財産上の損害は全体財産の減少を意味する。法的見地からではなく、経済的見地からその有無を判断する〔70〕。
例えば、回収が困難な債権を額面で取得した場合、経済的には額面通りの価値はないので、財産上の損害がある。
(2)甲と乙は貸す側と借りる側であり、利害関係が対立する当時者である。まず共犯と身分→65.1適用。
経済活動は自由競争が認められている。もし安易に背任罪の共同正犯を認めれば、経済活動を萎縮させてしまう。そこで、多少の働きかけは許されるべきである。ふつうは融資に当たり適切な審査が働くはずであり、これが働かないのは専ら銀行側の責任であり、借り手側の責任でない。したがって、融資の適切な審査ができないようにした、又は、できない状況になっていることを利用した場合に限り、許される自由競争を逸脱したものであり、背任を共同して実行したといえると解する。
(3)横領と背任の区別 まず、甲は他人物の業務上の占有者であって業務上横領の所有者となる。また、他人の事務を委託されたものでもあるので、背任罪の主体にもなり得る。しかし、ともに委託関係と委託者の財産を保護法益とすることから法条競合となる。そこで、法定刑の重い業務上横領罪(253条)の成否から検討する。本人名義・本人計算なら背任(青351、基M160)

9 盗品等関与罪(256条) 論文では、①客体→②主体→③行為の順に論じる。
(1)一次的保護法益は、本犯の被害者の財物に対する返還請求権である。(対:返還請求の利益)
処罰根拠は、①追求権の侵害(無償でも処罰されることから)、②本犯助長性(1項と2項の違い)にある。
(2)客体は、「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」である。財産犯に当たる行為であるから、構成要件該当行為・違法性があれば足りる(本犯が刑事未成年でもいい)。領得された物であるから、会社の秘密資料をコピーした物は客体に含まれない(この場合、横領等の幇助も承継的共犯を否定するので成立しない)。禁制品も客体となり得るが、不法原因給付物はその所有権が受給者に移転する以上、給付者の追求権は否定され、客体に含まれない(例外は民法708条ただし書)。
盗品と同一性のある限り、盗品性は失われない。例えば、金銭を両替して他の金銭に替えても盗品性は失われないが、盗んだ財物の売却代金は同一性なく盗品性は失われる。
盗品・遺失物については、民法192条193条を適用して判断する。被害物が付合(民法243条)し、被害者の被害物に対する請求権を失えば、その物は盗品等関与罪の客体とならない〔76〕。
(3)主体 本犯者は既にその物に対する法益を侵害している以上、不可罰的事後行為に当たる(本犯助長性が無い)。
本犯に対する教唆者・幇助者は主体となり得る。盗品等関与罪で侵害される法益は、本犯の教唆・幇助で評価しつくされたとはいえないからである。
(4)行為類型
ア. 何らかの財産罪に当たる行為により領得された物であることについて、未必的な認識があれば足りる。意思疎通を欠く行為に本犯助長性が認められない以上、意思疎通を必要とする(基M165,青本355 タイミングの問題が、知情後の保管の論点)。行為類型は、無償譲受け(1項)、運搬、保管、有償譲受け、有償処分あっせん(2項)である。
イ. 被害者は本犯に対して無償で返還請求できる。被害者への運搬・処分であっても、被害者が対価を支払って、物の返還を受けた場合には、被害者の無償の追求権が侵害されたといえる。運搬・有償処分あっせん罪が成立する〔74〕。
ウ. 盗品等保管罪の処罰根拠は追求権侵害と本犯助長性にある。知情後も本犯のために保管を継続することは、保管している間も追求権侵害が継続していることからすれば、盗品と知りながら保管を開始することと差異があるとはいえない。安全な保管が継続する点で、本犯助長性の観点からも成立は否定されない。したがって、知情以降も保管した場合、盗品等保管罪が成立する〔75〕。
エ. あっせんの着手時期はあっせん時である(早い)。途中で気づいても、売却依頼あればあっせんである(事36)。
あっせんは相手方に対する詐欺を当然に予定しているので、別途、詐欺罪を構成しない(事36)。
(5)親族間の特例(257条)の主体は、配偶者、直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者である。(244条1項よりも広く、同2項よりも狭い)
特例の趣旨は、期待可能性の減少に基づく人的処罰阻却事由を定めたことにあるから、本犯者との間に親族関係がなければならない。また、盗品等関与罪の犯人相互間でも期待可能性がないという点では同じであるから、同条が適用されると解する。

10 毀棄罪 要件は、①客体、②毀棄等である。
②毀棄・損壊とは、物の効用を害する一切の行為をいう。
(1)公用文書毀棄罪(258条)の公用文書とは、公務所において現に使用し又は使用に供する目的で保管している文書をいう。たとえ、違法な手段によって得られた文書でも、将来公務所において適法に使用されることはあり得る以上、公用文書に当たるというべきである。
(2)私用文書等毀棄罪(259条)の客体は、権利又は義務に関する他人の文書、すなわち権利又は義務の存否・得喪・変更を証明するための文書である。事実証明に関する文書は客体から除かれており、器物損壊罪が成立する。
(3)建造物損壊罪(260条)の客体は、他人の建造物である。他人の建造物というためには、他人の所有権が将来民事訴訟等において否定される可能性ないということまでは必要ない。民事法の目的は当事者の公平を図ることにあり、刑事法の目的は財産法秩序の維持にあり、両者の判断基準は異なるからである。
建造物に取り付けられた物が建造物の一部といえるかどうかは、当該物と建造物との接合の程度、及び、当該物の建造物における機能上の重要性を総合考慮して決する。本件ドアは、住居の玄関ドアと外壁と接続し、外界との遮断、防犯、防風、防音等の重要な役割を果たしているから、建造物損壊罪の客体に当たる(最平19)。マンションの仕切り板は簡単に否定。
損壊について、施設の外観、美観に相応の工夫が凝らされていれば、その汚損の程度と原状回復の容易さ・困難さを考慮して、建物の効用の減損があったか否かを判断する。
(4)器物損壊罪(261条)は、補充規定であり、先に258-260を検討する。傷害は客体が動物の場合に用いる。
何か物が損壊・隠匿された場合には、この罪責を想起できるようにしよう(忘れやすい)。不法領得を否定した後にも。

Ⅱ 個人的法益
1 生命に対する罪
(1)殺人など
ア. 殺人罪や強盗罪の実行行為、殺意の有無など、重い犯罪、実務でよく争われる点は、丁寧に事実を評価する。人体の枢要部か、殺傷力のある凶器か、行為は執拗か、両者の対格差・年齢差・人数などである。
不作為の殺人罪と保護責任者遺棄致死罪は、殺意の有無で分かれる。
イ. 自殺関与(202条前段)と同意殺人(202条後段)の区別は、自殺者・被殺者の意思に合致した生命侵害に対する教唆・精神的幇助か、正犯的関与かによる。
未遂の時期は、同意殺人罪の場合、殺人の具体的危険が生じたときである。同意殺人罪との均衡を図るべく、自殺関与罪の実行の着手時期は、自殺行為への着手の時点であると解する。
死の意味を理解しうる精神能力が必要であり、それを欠く者に有効な自殺意思・被殺意思を認めることはできない。また、死の認識・受容の意思がなければ、自殺意思・被殺意思を肯定することはできない。強制等による意思抑圧の結果として形成された自殺意思・被殺意思は、それ以外を選択することができない精神状態において形成された場合には無効である。欺罔により自殺意思・被殺意思を生じさせた場合、欺かなければその意思を形成するに至らなかったと認められるとき、それは真意に重大な瑕疵ある意思であり無効となる。
ウ. 同意の存在を誤信した場合、38条2項を適用して、重なり合う限度で同意殺人罪が成立する。逆に、行為者が同意の存在を知らずに殺した場合、重なりあう同意殺人罪の限度で故意が認められ、同意殺人罪が成立する。
(2)堕胎罪 堕胎罪の保護法益は、第一次的には胎児の生命であり、副次的には母親の生命・身体である。自己堕胎罪、同意堕胎罪、業務上堕胎罪、不同意堕胎罪の順に重くなる。
堕胎とは、自然の分娩期に先立って胎児を母体外に排出する行為、胎児を母体内において殺害する行為である。
母体を通じて胎児に侵害を加え、出生により人となった段階で傷害・死亡の結果が発生した場合について。胎児は人ではなく、過失堕胎、胎児傷害は不可罰とされている以上、胎児を母体の一部と解するべきではない。そこで、人に対する罪を否定するべきである。
母体から排出された胎児に人としての生命現象が認められる場合、人として保護される。作為による生命の侵害は犯罪となる。不作為による生命侵害は、延命可能性が低い場合、作為義務が否定され、殺人罪・保護責任者遺棄罪等の成立が否定され得る。
(3)遺棄罪
遺棄罪(217条以下)は、生命及び身体に対する危険犯である。要件は、①客体、②遺棄・不保護、③保護責任の順に挙げる。
ア. ①客体:単純遺棄罪(217条)と、保護責任者遺棄罪(218条)の客体は同一であり、保護責任者遺棄罪も「扶助を必要とする」との限定が付されていると解される。扶助を必要とするとは、他人の助力がなければ自ら日常の生活を営むべき動作をなしえないことをいう。扶助を必要とする原因は「老年、幼年、身体障害又は疾病」に限られ(限定列挙)、手足を縛られた者は含まれない。疾病とは、身体的・精神的に健康状態が害されている状態をいい、高度の酩酊者、覚せい剤により錯乱状態にある者、衰弱状態にある少年、交通事故により歩行不能となった者などが当たる。熟睡中の者、溺れかけの者は含まれない。
イ. ②行為 ②遺棄とは、場所的離隔を生じさせることにより要扶助者を保護のない状態に置くことである。(移動させても危険性変わらなければ不作為の遺棄)不保護とは、場所的離隔によらずに要扶助者を保護しないことである。遺棄は、要扶助者の場所的移転を伴う狭義の遺棄(移置)と、置去りなど要扶助者との場所的離隔を生じさせる全ての場合を含む広義の遺棄とに分けられる(不作為でも移動していれば遺棄)。
単純遺棄罪の「遺棄」とは、狭義の遺棄(移置)を意味し、保護責任者遺棄罪の「遺棄」とは、広義の遺棄を意味する。なぜなら、不作為形態は作為義務を要件とし、保護責任者遺棄罪においてのみ可罰的だからである。
ウ. ③保護責任の有無は、先行行為、危険の引受け、排他的支配、保護の継続性等を総合考慮する。

2 身体に対する罪
(1)暴行罪(208条)
暴行とは、人の身体に対する一切の有形力の行使である。
暴行の有形力の行使には、人に対する不法な一切の攻撃方法を含み、性質上傷害の結果を惹起するものである必要はない。
暴行の故意で有形的方法により傷害結果を生じさせた場合、結果的加重犯(208条参照)たる傷害罪(204条)が成立する。これに対し、無形的方法では傷害の故意が必要である(注意)。
(2)傷害罪
傷害とは、人の生理的機能、健康状態を害することである。暴行によらない傷害もある(例:騒音)。
ア. 乙はBを力いっぱい突き飛ばしており暴行の故意は認められる。しかし、乙の行為は逮捕を免れるためにされたものであり、その態様は素手で一度Bを突き飛ばしたにすぎず、乙の生命に対する危険性は客観的には大きくなく、行為の執拗性もない。とすれば、乙にB殺害の認識・認容があったとはいえないと判断すべきである。
暴行の故意によって死亡結果が生じているので、二重の結果的加重犯(208条参照)たる傷害致死罪(205条)が成立する。
イ. 2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合で、傷害を生じさせた者を知ることができない場合、共犯関係がなくとも、傷害についての刑事責任を負う(207条)。要件は、①同一機会に行われた暴行、②因果関係不明である。同条は「疑わしきは被告人の利益に」という原則の例外であり、適用範囲は厳格に絞りをかけるべきである。そこで、適用範囲は正犯者がいない場合に限られると解する(承継的共同正犯では否定する)。
立証の困難の回避という207条の趣旨は、傷害致死罪でも妥当するので、207条は傷害致死罪にも適用されると解する。
ウ. 判例は傷害致死罪(205条)の加重結果たる死の結果につき、過失は不要としている。
(3)過失致傷罪 責任故意を阻却した後に忘れやすい。
ア. 過失犯を検討する際は、狩猟中など業務中であれば業務上過失致死傷罪(211条前段)、を検討する。単なる過失傷害罪(209条1項)、過失致死罪(210条1項)、重過失致死罪(211条後段)はそれに当たらない場合に検討する。
自動車運転過失致死傷罪(211条2項は削除された 自動車運転処罰法)は出ない。
イ. 業務上過失致死傷 要件は、①業務、②過失、③死傷結果である。
業務とは、反復・継続して行う社会生活上の事務で、人の生命・身体に対する危害を加えるおそれのある事務である。
構成要件は、社会生活上の地位に基づく行為であること、反復継続性、人の生命・身体に対する危険な行為であること、の3つである。炊事や育児などは社会生活上の地位に基づくとはいえないが、娯楽のための行為、無免許による行為、違法な行為も含まれる。1回でも反復継続の意思で行われた行為であれば反復継続性が認められる。

3 自由に対する罪
(1)脅迫・強要罪
ア. 脅迫罪(222条)の保護法益は、私生活の平穏・安全感、意思活動の自由である。
脅迫とは、一般に人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいう。加害の対象は被告知者の親族も含まれる(222条2項)。
告知が到達して認知されたことは必要であるが、実際に相手方が畏怖したことは必要ない(危険犯)。
法人に対する脅迫罪は成立しない。
脅迫罪の処罰根拠は意思活動の自由に対する侵害であるから、加害は将来の害悪であって、告知者が直接・間接にその惹起を支配・左右しうるものとして告知されなければならない。
告知される加害行為は違法であることを要しない。脅迫罪の処罰根拠は意思活動の自由に対する侵害にあるところ、適法行為による加害行為も、意思活動の自由を侵害するからである。
イ. 強要罪(223条)の保護法益は、意思活動の自由である。親族に対する脅迫について223条2項。
構成要件は、脅迫又は暴行により、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したことである。現実に侵害することが必要である。法人に対する強要罪も成立し得る。役員・従業員を介した法人の意思決定を観念し得るからである。
(2)逮捕監禁罪(220条)
ア. 逮捕監禁罪(220条)の保護法益は一定の場所から移動する自由である。
監禁罪を検討するときは、わいせつ目的誘拐罪など、略取誘拐の罪も頭に置いておく。
客体は、場所的移動能力を有する自然人に限られる。場所的移動の自由とは、可能的自由であり、仮に移動しようと思ったときに移動できない状態であれば、その時点で既に逮捕監禁罪が成立する。だまして乗せた場合等に論じる。(実行の着手時期の問題! H25司)
イ. 逮捕とは、人の身体を直接的に拘束して、その身体活動の自由を奪うことである。
両腕を縛っても、場所的移動の自由が害されていない限り、暴行罪となるにすぎない。瞬時の拘束は暴行罪となるにすぎない。
監禁とは、人の身体を間接的に拘束して、その身体活動の自由を奪うことである。
監禁というには、移動が物理的又は心理的に不可能ないし著しく困難な状態になったことを要する。ある空間(車、部屋等)に人を入れたら監禁を疑う。
ウ. 場所的移動の自由が失われることに、本人が自由な意思により同意を与えていれば、構成要件該当性が否定されるので、監禁罪は成立しない。(H21新司 他の自由罪も同様)
場所的移動の自由が失われることには同意したが、その意思が生じる点について欺罔や錯誤がある場合、逮捕監禁罪が成立するのか問題となる。この点、欺罔や錯誤がなければ同意しなかっただろう場合には同意は無効であると解する。そこで、かかる場合には、逮捕監禁罪が成立すると解する。
(3)略取誘拐罪
ア. 客体を未成年者に限定する(224条)、わいせつ・営利目的(225条)や身の代金目的(225条の2)など一定の目的(身分=65条が問題)が要件とされることで、当罰性の高い類型に処罰範囲は限定される。要件は、①客体・目的、②行為である。
略取とは、暴行・脅迫を手段として、人をその生活環境から離脱させ、不法に自己又は第三者の支配下に移す行為である。
誘拐とは、欺罔・誘惑を手段として、人をその生活環境から離脱させ、不法に自己又は第三者の支配下に移す行為である。
イ. 未成年者略取・誘拐罪(224条)の保護法益は、被拐取者の自由及びその安全である。監護権者の同意がある場合でも、監護権の濫用の事例では処罰の必要性があるので、監護権を未成年者の保護と解することで処罰を可能にする。
営利目的当略取・誘拐罪(225条)では、営利目的、わいせつ目的、結婚目的、生命または身体に対する加害の目的、という各目的の解釈が問題となる。
身代金目的略取・誘拐罪(225条の2)の「安否を憂慮する者」とは、近親者及び被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが社会通念上当然と見られる特別な関係にある者である。社会通念に従い客観的類型的に判断する。
(4)性的自由に対する罪
ア. 強制わいせつ罪(176条)、強姦罪(177条)の手段としての暴行・脅迫は、相手方の反抗を著しく困難にする程度のものであることが必要である。
イ 強制わいせつ罪(176条)の要件は、①暴行・脅迫、②わいせつな行為である。13歳未満の者に対しては①は不要である。
②わいせつな行為について、公然わいせつ罪(174条)におけるわいせつな行為とは、保護法益が異なる。強制わいせつ罪の保護法益は本人の性的自由であり、後者は性的秩序が問題になる。公道で無理やりキスをすることは、強制わいせつ罪にはなるが、公然わいせつ罪にはならない。
13歳未満の者を13歳以上であると誤信して①暴行脅迫によらずに②わいせつな行為をした場合、故意なく犯罪は成立しない。
強制わいせつ罪の成立要件として明文にない性的意図は不要である。強制わいせつ罪の保護法益は性的自由であるところ、性的意図は性的自由の侵害とは関係ないからである。
ウ.  強姦罪(177条)の要件は、①暴行・脅迫、②姦淫である。13歳未満の者に対しては①は不要である。
結婚していても性的自由がある以上成立する。強姦罪の主体は男に限られていない(事実上男が実行できる、というだけである)ので、女でも、間接正犯、共同正犯にはなり得る。
強姦に至る客観的な危険性が認められる場合に実行の着手が認められる。(暴行が手段である犯罪であり、かなり早い)
実行の着手後でも姦淫を認容すれば因果関係を欠く。
オ. 準強制わいせつ罪・準強姦罪(178条)の構成要件は、心神喪失・抗拒不能に乗じてわいせつな行為・姦淫をすることである。抗拒不能とは、物理的又は心理的にわいせつな行為又は姦淫に対して抵抗することが著しく困難な状態をいう。
カ. 集団強姦罪(178条の2)は、現場における共同正犯形態であり、その限りにおいて60条は適用されない。
死について故意がある場合、判例は、強制わいせつ等致死罪(181条2項)と殺人罪(199条)との観念的競合とする。しかし、181条2項は結果的加重犯であり、また、死の二重評価を避けるため、強制わいせつ・強姦罪と、殺人罪との観念的競合とすべきである。
強制わいせつ致死傷罪(181条1項)及び強姦致死傷罪(同2項)の死傷結果は、わいせつ行為及び強姦に随伴する行為から生じたものであっても因果関係が認められる。例:逃走の際の傷害〔15〕。基本犯の中に加重結果が発生する高度の危険性が内包されており、加重結果から被害者の生命・身体を保護する趣旨である以上、随伴行為まで広げるべきだからである。
(5)住居侵入(130条)
ア. 住居侵入罪を忘れない。問題では住居侵入罪、建造物侵入罪の成立を意識する。社屋は建造物(ペー4、模試)
保護法益は、住居などの管理権、すなわち誰に立入りを認めるかの自由、住居権であると解する。
違法目的の侵入は公開されている場所でも成立させていい。
イ. ①住居とは、人の起臥寝食に使用される場所である。
住居は建造物に限らず一時的利用でもよい。①´住居以外の邸宅、建造物、艦船は、①´人の看守するものであることが必要である。宿舎の共用部分は邸宅であり、分譲マンションの共用部分は住居である。建造物とは、住居・邸宅以外のものを広く含む。
①建物自体のみならず、付属する囲繞地も客体に含まれる。囲繞地とは、建物に接してその周囲に存在する付属地であり、建物利用のために供されるものであることが明示されたものをいう。
①´看守とは、人が事実上管理支配することである。
①´敷地を囲むフェンスがあり関係者以外立ち入り禁止の掲示がある場合、フェンスに開口部があっても、看守を認め得る。
ウ. ②侵入とは、住居権者の意思に反する立入りである。
建造物については、看守者の許諾があれば、建造物侵入罪の成立は否定される。
保護法益は住居権であるから、管理権者、住居権者の一人の許諾があれば、住居侵入罪の成立が否定されると解する。
一般に公開されている建造物については、立入りについて包括的許諾があると考えられる。しかし、違法な目的を秘して立ち入った場合は住居権者の意思に反する立入りであり、住居侵入罪が成立する。

4 その他
(1)名誉毀損罪 要件は、①公然、②事実の摘示、③人の名誉の毀損である。
ア 構成要件
保護法益たる人の名誉とは、人に対する社会的評価である。人の真価とは異なった評価である虚名も保護され、摘示した事実が真実でも、免責がない限り処罰される。名誉の主体である「人」には、法人などの団体も含まれる。団体も社会的活動を行い、その評価は法的保護に値するからである。
①公然とは、不特定又は多数人が知り得る状態である。摘示の相手方が小数人であっても、その者らを通じて不特定多数人へと伝播しうる場合、公然といえる。
②事実を摘示とは、具体的に人の社会的評価を低下させるに足りる事実を告げることである。摘示される事実は、人の社会的評価に関する事実であれば足りる。公知の事実でも良い。当該事実を知らない人にさらに伝播する可能性があり社会的評価を低下させるおそれがあるからである。
③名誉毀損罪は、人の社会的評価を低下させるべき事実を公然と摘示することで成立し、名誉が現実に侵害されたことを要しない。社会的評価が実際に低下したことを立証することは困難であり、また、それを行うことは適当ではないからである。
危険性を要求する説として、「社会的評価が低下する危険性があるので、③毀損したといえる。」と書くべきか。
イ 真実性の証明
名誉毀損罪が成立しても、①事実の公共性、②目的の公益性、③真実性の証明があれば、免責される(230条の2第1項)。
③が必要な点で、国民の知る権利に資する正当な権利行使といえるので、違法性阻却事由である。
公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実については、①公共性があるものとみなされる(同2項)。
公務員又は公選の公務員の候補者に関する事実については、①公共性及び②目的の公益性があるものとみなされる(同3項)。
③が無い場合に常に名誉毀損を認めれば、表現の自由が委縮してしまう。そこで、③がなくても、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損罪は成立しない。
(2)業務妨害罪 要件は、①業務、②虚偽の風説を流布、偽計(以上233条)、威力(234条)、③妨害である。
ア. 業務とは、社会生活上の地位に基づき反復・継続して行う事務又は事業をいう。
娯楽としての活動や趣味、料理、清掃、洗濯などは含まない。継続的に行われるものであれば、それ自体としては1回しか行われていない単発的な事業も業務に含まれる。違法であっても、事実上平穏に行われていれば①客体となる。
法的瑕疵があるため公務執行妨害罪の保護の対象とならない公務については、業務妨害罪の①業務にも含まれない。
イ. 業務妨害罪(233条後段、234条)でいう①業務は公務も含まれるか。公務は公務執行妨害罪で保護されているため、両者の関係が問題となる。
業務妨害罪の保護法益は、個人の社会的活動の自由である。公務も公務員としての個人の社会的活動にほかならないから、公務であっても業務妨害罪で保護されるべきである。しかし、強制力を行使する権力的公務であれば、自力で抵抗を排除し得る権能を付与されており、暴行・脅迫以外に対する保護を認めるのは妥当でない。そこで、強制力を行使する権力的公務は業務妨害罪のいう「業務」に含まれないが、それ以外は含まれると解する。
A:出動、警戒という行為自体は強制力を行使する権力的公務とはいえない。確かに、逮捕などは強制力を行使する権力的公務であるが、未だ行使されていないので問題とならない。
ウ 偽計とは、人を誘惑・欺罔することである。非公然と行われる妨害手段が広く含まれる。
威力とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことである。公然と行われる手段である。ネットで脅迫も威力(事17)。
エ 業務妨害罪において妨害結果は不要であり、妨害結果を発生させるおそれのある行為があれば足りる。
信用毀損罪では、毀損結果は不要であり、同じ条文である以上、妨害も同様に妨害結果までは不要であるとするのが、統一的だからである。また、現実に妨害結果を立証することは困難だからである。
オ 公務員や従業員が何かしら騙されたら偽計業務妨害罪を検討する。だますのが犯罪に関することであれば、犯人隠避ないし証拠隠滅もあり得る(H21新試)。

Ⅲ社会的法益
1放火罪 
(1)総論 要件は、客体を特定した上で、①放火、②焼損、③(109条2項、110条は)公共の危険の発生である。
罪数について。放火罪は公共危険罪であるから、生じた公共危険が1つであれば放火罪が一罪成立し、行為者がその焼損を予見していた客体に関する最も重い罪が成立する。
(2)現住建造物
ア. 建造物とは、家屋その他これに類する建造物をいい、屋根があり、壁又は柱で支持されて土地に定着し、内部に人が出入りできるものをいう。取り外しできる畳などは建造物の一部ではない。
(エレベーターが非現住建造物に当たるかは論点→その後に一体性)
現住とは、現に人の起臥寝食する場所として日常使用されていることである。
居住者を連れ出しても、家屋内に日常生活に必要な設備があり、帰れば再び宿泊するものと認識していた場合、使用形態に変更がない。したがって、現住性は肯定される。
イ. 現住建造物放火罪(108条)が非現住建造物放火罪(109条1項)よりも重く処罰される根拠は、現住部分に存在可能性のある(存在し得る)人の生命・身体に対する抽象的危険にある。
そこで、現住建造物の一部といえるかどうかは、現住部分への類型的な延焼可能性(物理的一体性)、非現住部分が現住部分と一体として使用されているか(機能的一体性)を考慮すべきである。
ウ. 建造物の一部でも、優れた防火体制を備え延焼の可能性がない場合、マンションの一室それ自体独立性を有する。そこで、独立の建造物として扱う(医院など人の起臥寝食の場所として日常使用されていない場合、非現住建造物となる)。
ここで問題となるのは一体性ではなく独立性であるから、単に延焼可能性のみを論じ、機能的一体性を論じることはない。
(3)要件について ア. 放火とは、客体の燃焼を惹起する行為である。
イ. 放火罪の保護法益は、不特定多数人の生命・身体・財産であり、公共危険罪としての性格を有するところ、木造建築の多い日本においては、目的物が独立に燃焼を継続する状態に達すれば、公共の危険が発生したといえる。
そこで、「焼損」とは、火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続し得る状態に達したことをいうと考える。
放火罪は火による罪であるから、「焼損」は燃焼による損壊でなければならない。したがって、有毒ガスの発生では「焼損」とはいえない。
ウ. 109条2項、110条の成立には、公共の危険の発生が必要である。
公共の危険とは、一般人をして、所定の目的物に延焼するおそれを感ぜしめるにつき相当な理由のある状態である。
公共の危険は、108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険のみに限られるものではなく、不特定または多数の人の生命、身体又は前記建造物等以外の財産に対する危険も含まれる。
エ. 109条2項(110条)の成立には「公共の危険」の認識を要するか。
この点、判例〔87〕は「公共の危険」が生じることの認識は不要であるとしている。
しかし、自己所有物を焼損すること自体は法益侵害性がなく、109条2項(110条)は、当該行為によって公共の危険を発生させて初めて法益侵害性が認められる。そうすると、公共の危険の発生は構成要件要素であり、その認識が必要と解するべきである。
(4)延焼罪・失火罪
ア 延焼とは、予期しなかった客体が焼損することである。
延焼罪(111条)の成立には、基本犯である109条2項、110条2項の成立が必要で、公共の危険発生の結果として、108条・109条1項・110条1項の客体に延焼したことが要件となる。
イ 業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位である。
個人的に行われる喫煙や家庭内で行われる調理などの行為は、反復継続されても、業務には当たらない。
ウ 失火罪(116条)の構成要件は、①失火、②108条、109条1項の客体、③焼損(1項)、又は、①失火、②109条2項、110条の客体、③焼損、④公共の危険の発生(2項)である。①失火とは、過失により火を放つことである。

2文書偽造罪 (1)要件は、①行使目的、②公文書(155条1項)・私文書(159条1項)、③偽造、④有印である。
(2)②文書 ア 文書とは、可視的符合により一定期間永続すべき状態において物体に記載された人の意思観念の表示である。
運転免許証は公文書である。マークシートの具体的設問との関係では、解答者が正解と観念したものを表示したものといえる。
イ. コピーを写しとして使用するとき、コピーも②「文書」に当たるか。
自説:文書偽造罪の保護法益は文書に対する公共の信用にあるところ、複写技術が進歩し、原本の写真コピーが原本に代わるものとして利用されている今日では、コピーも公共の信用を得ることはある。そこで、コピーも、原本と同一の意識内容を保有し、証明文書として同様の社会的機能を有する場合には、「文書」に含まれると解する。④印章・署名についても、複写されている以上、原本作成名義人の印章・署名として扱うべきである。したがって、有印…偽造罪が成立する。
ウ ②私文書 権利義務に関する文書とは、私法上・公法上の権利・義務の発生・存続・変更・消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする文書をいう。例:売上表
事実証明に関する文書:実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書 例:入試答案は入学に足る学力の存在を示す。
(3)③偽造
ア 文書偽造でいう③偽造とは有形偽造、つまり、文書の作成者と名義人の人格の同一性を偽ることと解する。
作成者とは規範的にみてその意思にもとづいて文書を作成させた者である。名義人とは、文書上作成者として認識される者をいう。
イ. 補助公務員が事後決裁を受けずに文書を作成した場合について。一定の手続を経由するなどの特定の条件のもとにおいて公文書を作成することなどが許されている補助公務員も、その内容の正確性を担保するなど、その者への授権を基礎づける一定の基本的な条件に従う限度で権限を有する。したがって、③偽造に当たらず、公文書偽造罪は成立しない。
ウ 間接正犯 (ア)丙が公務員たるYを利用しており、丙に公文書偽造罪の間接正犯(155条)が成立しないか。作成名義人である公務員が欺かれて、文書を作成することや、文書の種類、性質についての認識を欠き、公文書を作成した場合、公文書偽造罪の間接正犯が成立する。(私文書偽造罪(159条1項)においても、欺いて作成させた場合には159条の間接正犯が成立する。)
(付随して詐欺罪も問題になりやすい)
(イ)公務員が、当該種類・性質の文書を作成することの認識を有するが、その内容が虚偽であることの認識を欠くにとどまる場合、虚偽公文書作成罪(156条)の間接正犯が問題となる。
自説:虚偽公文書作成罪(156条)は公務員のみが犯しうる身分犯であるから、私人は処罰の対象とはならない。したがって、私人が欺いた場合、間接正犯は成立しない。作成権限者以外の公務員による間接正犯を肯定する。
公正証書原本等不実記載罪(157条)は間接正犯形態を罰する。私人も当然に行い得る。
エ 権限逸脱(権限の方法・範囲に制限がある場合)は③偽造に当たる。濫用の場合には原則当たらない。
(4)作成者 ア. 名義人により授与された作成権限が濫用された場合に常に有形偽造となるのは妥当ではない。そこで、作成者とは規範的にみてその意思にもとづいて文書を作成させた者であると解する(規範的意思説)。
イ. 代理人が文書を作成したときには、その文書は本人の意思に基づいて作成されたといえるので、本人が作成者となる。
代理権を濫用した場合も、あくまで権限の範囲内で作成するものであるから、本人が作成者となる。
例:社長Xは取引に関する文書を作成するため秘書Yに作成を依頼し、Yは文書を作成し社長印を押してXに手渡した。この場合、作成者はXである。
ウ. 名義人が文書作成につき承諾を与えている場合には、原則として作成者は承諾人、つまり名義人となる。なぜなら承諾がある以上、当該文書は名義人の意思に基づいて作成されたと言えるからである。
ただし一定の状況を前提として作成される文書については、その前提条件を充足しない名義人にその文書作成の責任を負わせることは許されない。この場合、現実に文書を作成した者が作成者となる。
エ. 交通事件原票は名義人乙以外の者が作成することは法律上許されない〔97〕ものであって、その現場にいない乙に文書の責任を負わせることはできない。よって、作成者は甲であり、甲は文書の名義人と作成者の人格の同一性を偽ったといえる。甲に有印私文書偽造罪(159条1項)が成立する。それを提出しているので同行使罪(161条1項)が成立する。
→乙との共同正犯の場合、名義人たる乙に正犯が成立し得るか。→共同して法益侵害○ よって、成立。
(5)名義人 ア. 偽名が文書の関係領域において通用しているときには、その名が作成者を示すことは解るので、偽名を使用して文書を作成しても文書の作成者と名義人の人格の同一性を偽ったとはいえない。ただし、文書の特殊性によっては通称名の定着度は問題とならない。つまり、文書の性質上、本名を記載することが要求される場合には、名義人は本名でなければならない。
イ. Yの名が甲を指標するものとして通用している範囲においては、名義人は甲ともいえる。しかし本問警察官との関係、交通取締当局、前科記録との関係では、交通処理原簿には本名を記載することが要求される。よって、名義人はYである。甲は文書の作成者と名義人の人格の同一性を偽ったといえるので有印私文書偽造罪(159条1項)が成立する。
そしてそれを提出しているので同行使罪(161条1項)が成立する。
ウ. 文書の性質によっては通称名の定着度は問題とならない。出入国管理の観点からは、再入国許可申請書を審査する際には、申請者が適法な在留資格を有するかが問題となる。事務所が許可を出すのは名宛人が「適法な在留資格を有する乙」だからであって、その資格のない乙だからではない。かかる文書の性質に鑑みれば、文書の名義人は「適法な在留資格を有する乙」である。乙は文書の名義人と作成者の人格の同一性を偽ったといえる。よって、有印私文書偽造罪(159条1項)が成立する。
乙は当該文書を提出しており、同行使罪(161条1項)が成立する。
エ. 資格が無いのにあると偽っただけでは無形偽造にすぎず、私文書偽造罪は成立しない。
ただし、一定の状況を前提として作成される文書では、その前提条件を備えた者が名義人となる。そうすると、その前提条件を偽れば、文書の作成者と名義人の人格の同一性を偽ったといえる。
これは、その肩書きが当該文書・状況において重要な要素かどうかをもとに判断する。
オ. 代理権のない甲が「A代理人甲」として文書を作成したとき、作成者つまり文書の意思観念の表示主体は甲である。
名義人とは、文書上作成者として認識される者をいう。文書偽造罪の保護法益は文書に対する公共の信用にあるところ、かかる観点から名義人を考える。代理人の作成する文書では、相手方の関心はその文書の効果帰属主体であるから、効果帰属主体たる本人を名義人と解する。本問では本人Aが名義人である。(H24司)
したがって、文書の名義人と作成者の人格の同一性を偽ったので、甲の行為は「偽造」に当たる。
カ. 履歴書に偽名で自己の顔写真貼付→文書に表示された名義人は作成者とは別人格である。偽造したといえる。
(6)その他 ア 変造:真正文書に変更を加える権限のない者が、他人名義の真正文書の非本質的部分に変更を加えること
イ 偽造公文書行使罪(158条1項)、偽造私文書行使罪(161条1項)における行使とは偽造(虚偽)文書を、真正(真実の)文書として他人に認識させ、又は認識し得る状態に置くことである。コピーを示してもよい。情を知る者は行使の相手方から除外される。相手方に利害関係は不要である。
公衆の閲覧に供する登記簿は、それが公務所に備え付けられた場合に行使となる。
ウ 公務員に対し虚偽の申立てをして登記簿に不実の記載をさせた場合、公正証書原本不実記載罪(157条1項)の検討をする。例:無効な婚姻届を提出して戸籍謄本を備え付けさせた場合。
(7)その他社会的法益
死体遺棄罪(190条)の保護法益は、国民の宗教的感情及び善良な宗教生活上の風俗である。

Ⅳ国家的法益
1公務執行妨害罪(95条1項)
(1)保護法益は公務である。一切の公務をいう。要件は、①公務員が、②適法な職務を執行するに当たり、③暴行・脅迫を加えたことである。③暴行・脅迫(脅迫忘れやすい 事17)を手段とするときにのみ成立し、威力・偽計によっては成立しない。
(2)①公務員とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員である(7条1項)。
国立大学教授は、「法令により公務に従事する職員」(7条1項)であり、公務員に当たる。
公務に従事する職員には、単純な機械的・肉体的労務に従事する者は含まれないが、精神的労務を担当する者は含まれる。
(3)②について ア 職務は、非権力的・非強制的なものすべてを含む。
イ ②職務執行性について、具体的・個別的に特定された職務の執行の開始から終了までの時間的範囲、及びまさに当該職務の執行を開始しようとしている場合のように当該職務の執行と時間的に接着し、これと切り離し得ない一体的関係にある職務行為に限る(例:会議室での点呼終了後退出しようとした場合は否定)。ただし、職務の性質によってはある程度継続した一連の職務として把握することが相当である(例:統括的職務)。
ウ ②「職務」は適法なものであることを要する。なぜなら、違法な職務まで保護されるとすれば、国民の権利・自由が不当に侵害されるからである。適法性の要件は、①当該公務員の一般的職務権限に属すること、②具体的職務権限を有すること、③職務行為の有効要件である法律上の重要な条件・方式を履践していることである。 
①警察官か税務署員かといった区別。②不充足例は、執行官が自己に委託されていない事件に関して強制執行する場合、警察官が管轄区域外で捜査する場合。③の「方式」には訓示規定を含まず重要性の判断が問題となる。③適法例は青450〔117〕。
職務の適法性を、事後的に純客観的な立場から判断すれば、公務の円滑な遂行が阻害される。また、職務行為を行った公務員自身の判断を基準にすれば、公務員の恣意を許すことになり妥当でない。そこで、行為当時の状況に基づいて客観的、合理的に判断されるべきである〔118〕。
公務の適法性は規範的構成要件要素であり、その認識は故意の要件であるが、素人的な意味の認識で足りる。
適法性の錯誤について、適法性を基礎づける事実と、評価自体を区別し、前者について誤信した場合にのみ故意を阻却する。
(4)③について ア 公務執行妨害罪の保護法益は公務であり、③暴行とは円滑な公務の遂行を妨害するに足りるような性質のものであればよい。そこで、公務員に向けられた直接的又は間接的な有形力の行使であると解する。(脅迫は普通に害悪の告知)
本問では、甲はYの目の前で、拡声器を床にたたきつけ、有形力の行使が認められる。そして、対象たるYは眼前にいるのであるから、かかる有形力の行使は、Yに向けられたものといえる。したがって、甲の行為は公務執行妨害罪の「暴行」にあたる。
イ 妨害の具体的結果は不要である。妨害となるべき行為があれば良い(危険犯)。なぜなら、条文上要求されていないからである。また、公務執行妨害罪の保護法益は公務の円滑な遂行であるところ、妨害となるべき行為があれば公務の「円滑な」遂行は害されるからである。ここは危険発生の当てはめをしないほうがいい〔120〕。
(5)ア 業務妨害罪(233条後段、234条)でいう「業務」は公務も含まれるか。公務は公務執行妨害罪で保護されているため、両者の関係が問題となる。
業務妨害罪の保護法益は、個人の社会的活動の自由である。公務も公務員としての個人の社会的活動にほかならないから、公務であっても業務妨害罪で保護されるべきである。しかし、強制力を行使する権力的公務であれば、自力で抵抗を排除し得る権能を付与されており、暴行脅迫以外に対する保護を認めるのは妥当でない。そこで、強制力を行使する権力的公務は業務妨害罪のいう「業務」に含まれないが、それ以外は含まれると解する。
イ なお、公務執行妨害罪の「公務」は広く公務一般を含み、業務妨害罪が成立した上で、公務執行妨害罪も成立し得ると解する。ただ、非権力的公務について二重の保護を与える必要はないとの批判がある。
(6)罪数 暴行脅迫は吸収されるが、結果が発生すれば別に傷害罪、殺人罪が成立し、公務執行妨害罪とは観念的競合となる。

2 逃走・犯人蔵匿等
(1)逃走の罪 
逃走の罪は、国家の拘禁作用を保護法益とする。要件は、①主体、②行為で検討する。
逃走罪(97条)の主体は、裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者である。逮捕された者は含まれない。
加重逃走罪(98条)の主体は、97条に規定する者に加え、勾引状の執行を受けた者である。未遂の成立時期として、逃走手段としての損壊・暴行・脅迫が開始されたときには、逃走行為自体に実行が着手していなくても、未遂が成立する。
逃走援助罪(100条)の逃走援助の対象となる者は、法令により拘禁されたものである。これは逃走罪・加重逃走罪よりも広く、逃走する者に逃走罪が成立しない場合でも、逃走援助罪は成立することになる。看守者による場合加重形態がある(101条)。
(2)犯人蔵匿等
犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪は、刑事司法作用を保護法益とする。
ア. 犯人蔵匿罪(103条)の客体は、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者、拘禁中に逃走した者である。罪を犯した者とは、司法作用を妨害する者を処罰する立法目的に照らし、犯罪の嫌疑によって捜査中の者を含む。真犯人なら捜査開始前でも客体に含まれる。逮捕・勾留されている者も含まれるかは争いがある。
蔵匿とは、官憲の発見・逮捕を免れるべき隠匿場を提供して匿うことをいう。
隠避とは、蔵匿以外の方法により官憲の発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいう。(犯人の身柄の確保を害する性質の行為であればすべて含まれる。)
本罪は危険犯であり、刑事司法作用が現実に害される必要はなく、その危険が生じれば足りる。刑事司法作用の妨害可能性を当てはめて、危険がある、と当てはめをするべきだろう。
故意の要件をなす「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」の認識については、法定刑の認識は不要で、軽微でない罪を犯した者であるとの認識があれば足りる。(103条の場合、偽計業務妨害は成立しない。)
犯人等が自ら逃走する行為は「蔵匿」には当たらない。防御権の範囲内だからである。共同正犯も否定→教唆検討。犯人等が他人に自己を蔵匿し、又は隠避させるように教唆した場合、防御権の濫用であり、犯人蔵匿等教唆罪(61条1項、103条)が成立する。
イ. 証拠隠滅罪(104条)の客体は、他人の刑事事件に関する証拠である。自己の刑事事件に関する証拠が除外されている根拠は、期待可能性の欠如にある。他人の刑事事件に関する証拠で、かつ自己の刑事事件に関する証拠である場合、同様に期待可能性は欠如するので、この場合に自己のためにする意思でなされた証拠隠滅は、本罪の構成要件に該当しない。
共犯者の蔵匿・隠避は、証拠たる犯人の供述を隠すことにもなり得る。この場合、(上で述べた説のように)期待可能性の欠如から、証拠隠滅罪は成立しない。しかし、蔵匿・隠避のほうが刑事司法作用を害する度合いが強いから、犯人蔵匿等罪としては期待可能性を認め得る。そこで、犯人蔵匿等罪は成立する〔129〕。
宣誓した証人が偽証する行為は、偽証罪として重く処罰され、証拠偽造罪では処罰されない。偽証罪が宣誓証人のみを処罰していることから、それ以外の虚偽供述は処罰しない趣旨であると解される。そこで、宣誓しない証人が虚偽の陳述を行った場合、偽証罪で処罰されないし、証拠偽造罪でも処罰されない〔127〕。供述録取書も不可罰。供述書の提出は証拠偽造罪にある。
ウ. 親族等による犯罪は、刑を免除し得る(105条)。親族が第三者を教唆した場合、庇護権の濫用であり、同条の適用はない。第三者が親族を教唆した場合、第三者には期待可能性がないとはいえないので、同条の適用はない。犯人等が親族を教唆した場合、防御権の濫用であり犯罪が成立するが、犯人についても105条が適用される。親族が犯人等を教唆した場合、正犯に構成要件該当性が認められない以上、共犯も成立しない。
(3)偽証罪(169条)の要件は、①法律により宣誓した証人(身分犯)、②虚偽の陳述をしたこと(主観説)である。

3 収賄罪
(1)収賄罪の保護法益は職務の公正及びそれに対する社会の信頼である。要件は①公務員、②職務関連性、②´執行意思、③賄賂、④行為類型である。身分犯である。
(2)②「職務に関し」
ア. 賄賂と対価関係に立つべき職務とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の公務をいう。
公務員に職務執行の意思が必要である(事24)。
イ. 賄賂と対価関係に立つ職務に当たるか。「職務に関し」の意義が問題となる。
収賄罪の保護法益は、職務の公正及びそれに対する社会の信頼である。対価の授受によりこれを害するかという観点から、具体的に事務配分を受けた職務でなくても、その職務が一般的・抽象的に当該公務員の職務権限に属する場合には、「職務に関し」といえる。
ウ. 形式的には一般職務権限に属しないが、当該公務員が事実上所管し執務すべき職務密接関連行為についても、収賄罪が成立する。対価の収受によって職務の公正及びそれに対する社会の信頼が害されることは、職務行為と変わらないからである。
具体的には、当該行為に対する収賄によって本来の職務行為に影響を及ぼす場合には、職務密接関連行為といえる(影響説)。
例:権限を異にする公務員への働きかけをする場合、非公務員に対する働きかけをする場合に問題となる。
例:委員会で審議中の法案を廃止してもらうべく、国会議員Aに100万円供与した。A:現在審議中でも、本会議に上程されれば国会で審議採決がなされる以上、国会議員の職務権限に影響を及ぼすといえる。したがって、職務密接関連行為といえる。
エ. 前職に関し賄賂を収受した場合、何罪が成立するか検討する。
収賄罪の保護法益は、職務の公正及びそれに対する社会の信頼であるところ、転職後の賄賂の収受は公務員によって担われている全体としての公務に対する社会一般の信頼を害する。
そこで、賄賂に関する職務を現に担当することは収賄罪の要件ではないと解する。
以上より、前職に関し賄賂を収受した場合でも、供与時に公務員であれば、通常の収賄罪が成立すると考える。
オ. 現在公務員である者が将来担当すべき職務について請託を受けて賄賂を収受したとき、たとえ請託事項が再選後でなければ実現し得ない場合でも、収受した時点で受託収賄罪(197条1項後段)が成立する。将来担当すべき蓋然性がある限り、現在の公務も含めて公務の公正とそれに対する社会一般の信頼を害するからである。
(3)③賄賂 賄賂とは、公務員の職務行為の対価として授受等される不正の報酬としての一切の利益である。
一定の職務に対する対価であれば足り、具体的な職務行為との対価関係は不要である。(依頼ではないので、必ずしも請託となるわけではない。職務一般で便宜を図ってくれ(くれた)、というのは賄賂に当たる。考え方:依頼を立証するのは難しい。)
未公開株は、確実に公開価格を上回ると見込まれるものであり、公開価格で入手することは一般人には極めて困難であったので、客体となる〔108 それを購入すること自体が利益と同視できる 判例の射程〕。社交儀礼の範囲内であれば賄賂に該当しない〔109〕。
(4)④行為
ア. 収賄罪(197条1項前段)は公務員がその職務に関し収受・要求・約束した場合に成立する。
受託収賄罪(197条1項後段)は、収受・要求・約束に際し、請託を受けたときに成立する。
請託:公務員に対して、その職務に関し、一定の職務行為を行うことを依頼すること
イ. 事前収賄罪(197条2項)は、公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、収受・要求・約束した場合に成立する。
第三者供賄罪(197条の2)は、請託を受けて第三者に供与・要求・約束させた場合に成立する。
ウ. 加重収賄(注意:不正な職務行為の場合のみである。)系統
収受・要求・約束(197条1項前段)→不正な職務行為(197条の3第1項) 不正な行為とは観念的競合
不正な職務行為→その後、職務行為についての収受・要求・約束(197条の3第2項) 不正な行為とは併合罪
事後収賄罪(197条の3第3項)は、公務員であった者が、その在職中に請託を受けてした行為に関し、収受・要求・約束した場合に成立する。
あっせん収賄罪(197条の4)は、公務員が請託を受け、他の公務員に不正行為をあっせんすること、したことの報酬として、収受・要求・約束した場合に成立する。あっせんは、公務員が積極的にその地位を利用してする必要はないが、公務員としての立場であっせんする必要がある。
エ. 贈賄罪(198条)は対向犯である。贈与した側の罪責を問われたら、供与・約束罪のときは受け取った側の罪責を検討し、これが成立すれば贈賄罪も成立する。申込罪なら断られても独立に成立する。
(5)その他 ア 故意 公務員には、賄賂が職務行為と対価関係に立つものであることの認識が必要である。
イ 職務執行意思がある限り、恐喝や詐欺とは観念的競合となる(事24)。
ウ 恐喝された場合も、自由意思がある限り、被恐喝者に贈賄罪が成立する。